第3話 平穏な日常のはずだけど……。 ①

 個人の事情に関係なく時間は過ぎる。当然、高校生である俺には学校と言うものがあるわけで……。

 俺は眠い目を擦りながら、朝の忙しそうな顔をした人ごみの中に紛れ込んで、自分という個性を消し去って同化していた。

 昨日の事もあり、普段より少し疲れた面持ちで通学路を歩いていると、


「おはよう、徹!」


 肩をたたかれ、振り向くとそこには髪を後ろでポニーテールに結び、キラキラ輝く瞳を持つ少女が、真夏の大輪のひまわりの様な元気いっぱいの笑顔を咲かせていた。


「あぁ、今日子か……おはよう」

「あれ~っ? どうしたの? 何か元気ないわね」


 今日子は俺の前に回りこんで小首を傾げている。

 彼女は島田今日子。俺の幼馴染みだ。今日子と俺は初めて知り合ったのが幼稚園の時で、それ以来何故か小中学校でもほとんど同じクラスになっている。中学生まではいっしょに登下校していたのだが、高校生になってからは少しはずかしいからと言って別々に登下校してはいるのだが、気軽に話せて元気がもらえる大切な幼馴染みだ。


「んな事ねーよ! と言うか、朝っぱらからテンション上がるかよ」

「そぉ? 私なんていつでもテンションマックスだよ!」


 そう言いながら両腕を横に開いて、かわいらしくガッツポーズを作る今日子に、俺は苦笑しながら頭にポンとツッコミをいれる。


「そんなの、おまえだけだよ」


 今日子はそんな俺のツッコミにくすぐったそうにして、


「まったくもう、いつもそうなんだから。ねえねえ、ところでさ、徹は休みにどこかに遊びに行った?」

「全然、何処にも行ってねーよ。家で漫画を読んだり、ゲームをしたり、だらだら過ごしていたかなあ。今日子は?」

「相変わらずだなあ。と言っても、私も同じかな。家で妹と遊んだり、ショッピングに出かけたり、くらいだからなあ」


 そう言って今日子は胸の所で腕組みをして何かを考え始めた。今日子は巨乳って言われるカテゴリーに当てはまる人で、腕を組んだことによって胸が強調され俺は目のやり場に困っていた。


「ねえ、徹」

「えっ、あ、何?」


 今日子の巨乳の(俺が不謹慎な事を考えていた)せいで少しきょどってしまった。


「もしかして、私達、非リア充?」

「いやいやいやいや、俺はそうかも知れないけど、今日子は違うだろ。部活もやってるし」

「うーん、そうなんだけど……何か足りないような……」

「たとえば?」

「……恋……とか?」

「恋?」


 俺は今日子から思いもしなかった言葉が出てきたことに驚いた。長い間幼馴染みをやっているが、今日子からは誰かが好きだとか、付き合いたいとかいった恋愛に絡んだ話は一度も聞いたことがなかったからだ。


「ううん、違うの。えっと、今言ったこと全部忘れて! いい? 全部よ!」


 今日子は真っ赤な顔をして、手を顔の前で振りながら慌てたように言うと、目を学校の方に向け「あ! 真美ちゃんだ! じゃあ、私先に行くね」と言い残して走り去っていった。


 なんなんだいったい?

 俺はポニーテールが右に左に揺らしながら走る今日子の後姿を見ながら歩いてると横から声がした。


「へっへっへっへっ、見ていましたよ。お代官様」


 そうだった。もう一人朝からテンション高い奴がいるんだった。


「何の話だ? それになんでいきなり時代劇の悪徳商人モードなんだよ! 昌!」


 俺の隣に並んで歩いてきたのは、俺の親友で悪友の木崎昌。俺と同じ位の身長で人なっつこい顔つきに、短めの髪をはりねずみのように立てている。また、彼はノリの良さで同級生から人気があり、その性格と顔の広さからくる学内の情報収集能力は先輩たちからも一目置かれている。


「いやぁー、昨日のテレビでやっていた時代劇 暴れん坊の副将軍 が面白くてつい影響されちゃったよ」

「影響されるのは良いんだけれど、普通そこは副将軍モードになるんじゃない? なんで悪徳商人モードなの? その上に俺が悪代官だし」

「あっはははは……」


 昌は後頭部を掻きながら笑い、

「それはそうと、徹。今日子ちゃんとはどうなんだ?」

「どうって?」

「さっき二人で話してるの見たんだけどいい感じだったから、何か進展あったのかなって思ってさ」

「何もねぇーよ! って言うか、俺も今日子もそんなんじゃないよ」

「じゃあどうゆう関係なんだ?」


 昌は楽しそうにニヤニヤ笑いながら俺の顔を見てきた。


「えっと、幼馴染みで、同級生で、兄妹? 姉弟? いや違うな家族同然の付き合いをさせてもらっている関係かな」

「ふ~ん、家族同然ねぇ………………………………今日子ちゃんもこいつが相手だと苦労するな」


 嘆息しながら言った。最後の方が小声になって聞き取れなかった俺は気になって昌に聞き返した。


「最後の方、何か言ったか?」

「いや何も……、しっかし、あんなかわいい子と幼馴染みなんて、マジうらやましいよ!」

「かわいいって? 今日子の事?」

「はぁぁー、お前知らないのか? 今日子ちゃん、今年のミス神楽坂学園では去年のベスト5を脅かすであろうと言われてる程の急上昇の人気なんだぜ」

「そうなのか?」


 俺が驚いた顔をしていると、昌はやれやれと言うような顔でこちらを見ていた。俺は実際に今日子の事を恋愛対象として見た事もないし、そういう意味でかわいいと思った事もない。でも今日子がかわいいと言われるのは幼馴染みとしては嬉しいものである。

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