助けを求めない馬鹿を助けるほど、勇者はお人よしじゃないからね

 結果として、僕が魔王を殺すまでにかかった時間は2日だった。

 魔王の拠点は城だった。

 魔王がいるのはその城の一番上。

 城には転移魔法を封じる面倒な術式が組まれていたから、魔王がいる王座に向かうためには城を上がり続けなければならない。

 その城を上がるのが非常に面倒な作業だった。

 何故かというと、城の中には魔物がウジャウジャいたからだ。

 そいつらを殺すのにずいぶんを手間をかけてしまった。

 邪魔をしてくる魔物どもは全部殴り殺した。

 殺しても殺しても沸いて出てくる魔物達には殺意以上の怒りと苛立ちがわいてきた。

 殴っても殴ってもその苛立ちは簡単に消えてくれず、最後に魔王をボコボコにした時はその苛立ちを解消するために暴れたようなものだった。

 だけどそれでも苛立ちは消えなかった。

 地元にいた時からイライラしているときは一通り暴れれば収まるのに、なんで自分でもこんなに機嫌が悪いままなのか理由がさっぱりわからない。

 せっかく魔王を殺せたというのに、その達成感も何もない。

 あったのは理由のわからない苛立ちだけ。

 全身ボロボロで後ろで歓声を上げている女共の様子を、何をそんなに喜んでいるのだろうかと見つめていたら親友に肩を軽く叩かれた。

「お疲れ」

「……うん。お前もお疲れ」

 親友は女共も僕も守っていたから傷はほとんどない。

 それでも絶えず治癒術を使っていたせいなのだろう、疲労の色が濃い。

「それじゃあ、戻ろうか」

 やろうと思えば王都まで転移魔法でひとっ飛びすることもできたが、さすがに魔力もつきかけていたので、この場所から一番近い宿屋、ようするにあの町の宿屋まで転移した。

 町に転移したのは夜中だったが、宿の人は嫌な顔一つせずの僕らの部屋を用意してくれた。

 用意してもらった部屋のベッドに潜りこんで、僕は寝た。


「うん……?」

 かすかな光を感じて薄目を開く、欠伸交じりに体を起こすと、隣のベッドで寝ていた親友も目を覚ました。

「ああ、お前やっと起きたのか」

「は? やっと、ってまだ朝じゃん」

 というかお前だって今寝てたところじゃんと言うと、奴の口から衝撃の言葉が告げられる。

 なんと僕、丸一日眠っていたらしいのだ。

 魔王を殺した晩が明けた朝に何をしても起きず、昼間にもやっぱり起きず、夜になっても起きなかったので結局放っておかれたらしい。

 怪我や身体に何らかの障害があるわけでもなく、呪いの類もないのでただの疲労だったのだろうと親友は真面目な顔で語った。

「ふうん、そっか」

「まあ、あんな無茶苦茶な戦い方したらそうなるだろう。身体はおかしくないか? 痛みや違和感はあるか?」

「ないよ、疲れとかももう残ってないね。神さまの加護様々だ。あとお前も治してくれたんだろう? なら不調があるわけがない」

 ただでさえ僕の身体は頑丈なのだ、その上で最上級の治癒術を掛けられれば問題が残るわけがない。

「そういえばお前以外はどうしてるの?」

「全員無事だよ。だがなんかいろいろ報告やらなんやらをしなきゃならないらしくて、昨日の昼からどこかに行ってる。今日の夕方ごろには戻ってくるそうだ」

「ふうん」

 そんな会話をしながら指折り数える。

 魔王を倒すのに二日、親指と人差し指を折る。

 昨日丸一日寝てたらしいから一日、中指を折る。

 そして今日、薬指を折る。

 つまり、今日が四日後か。

「ところでさあ。この町出る前にちびっこに聞いたんだけど、今日お祭りやるらしいね?」

「……ああ。俺もその話は聞いている。……供物を捧げる日だと」

 暗い声で奴は言った。

 生贄云々の事がまだ納得できていないのだろう、基本的に善人であるこいつらしい。

「あ、やっぱり? いやあ、その時のちびっこがさあ……楽しいから勇者様も来てくれって言ってたんだよねえ……」

「……行くのか?」

「様子見くらいはしとこっかなって思ってる」

「そうか……助けないのか?」

「助けないよ。助けを求めない馬鹿を助けるほど、勇者はお人よしじゃないからね」

 そう言ってにこりと笑うと、奴は何故か深々と溜息を吐いた。

 昔からよく見る表情だ、こちらを諭す直前によくそういう顔をする。

「……お前がそう言うのならそういうことにしておこう。だが、魔王はすでに倒したんだ。お前が勇者としてふるまう必要はほとんどないだろう?」

「うん。そうだねー」

「だったらもう好きに動けばいいい。勇者だからと理由をつけるなんてお前らしくもない。昔からやりたい放題やってたんだ、今だってそうすればいいだろう」

「うん。なんで今そんなこと言われたのかわかんないけど、もともとそのつもりだよ?」

 今更なんでそんなことを言い出すのさ、と突っこむと奴は曖昧な顔で苦笑いした。

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