さっさと魔王をぶっ殺しに行こう、今すぐに、というか今日中に

「さっさと魔王をぶっ殺しに行こう、今すぐに、というか今日中に」

 朝食を食べている間に僕がそう言うと、親友も女共もぎょっとした。

 というかなんか今日は全員挙動不審だった、昨日の事をまだ気にしているんだろうか?

「きょ、今日中はさすがに無理だと思うよ」

「座標は分かってるんだ、転移魔法使えばすぐにつく」

 困惑顔の戦士に正論をぶつける。

 というかこの旅はまどろっこしいのだ。

 僕の加護を強めるために仕方ないとはいえ、魔王の影響で各地に出現した特殊な魔物どもを殺さなければならない時点で億劫だった。

 しかもその魔物どもを全部殺した後も、何故かすぐに魔王の拠点に赴かずに徒歩で寄り道しているのが心底理解できない。

 準備をしなければならないというのは分かるし、僕もおニューのメリケンサックが欲しかったから仕方ないとはいえ、別にこんな町に丸一日滞在する必要はなかったんだ。

 だから今すぐ行こう、さっさと魔王を殺して僕は地元に帰るんだ。

「勇者……なんかイライラしてる……牛乳飲む?」

 盗賊に差し出されたコップを受け取って一気飲みする。

「イライラなんかしてねーよ。さっさと魔王を殺したいだけ」

「怒ってると思うぞ……チーズも食べる?」

 格闘家に差し出されたチーズを受け取って一口で飲み込んだ。

「お前やっぱりちょっとおかしいぞ? 変な夢でも見たか?」

 親友が困惑顔でベーコンを寄越してきたのでそれも食べる。

 というかなんでこいつら僕に食べ物を寄越してくるのだろうか?

 ベーコンを飲みこんで、一息つく。

「おかしくないって言ってるじゃん」

「お前がそういうならそういうことにしておくが……それで、今日中に魔王の拠点に乗り込むのは可能なのか?」

 親友に問いかけられた聖女は少し考えた後、口を開いた。

「転移魔法を使えば不可能ではありません。ですがもう少し準備をしたいです」

「準備って何?」

「いろいろと準備しておきたいものがあります。薬や武器などですね」

「午前中に準備できるよね?」

 そのくらいはできるよね聖女様、と詰め寄ると聖女は顔を強張らせたまま小さく頷いた。

「んじゃ、そういうことで。聖女は必要なもののリスト作ってよ。手分けして買ってこよう」

 それでいいね、と全員に言うと、彼女たちは顔をひきつらせたまま快諾してくれた。

 持つべきものは聞き分けのいい仲間に限る。


 聖女が書き起こしたリストにあるものを速攻で購入したあと、待ち合わせ先である宿屋に戻る道中で見知らぬちびっこに話しかけられた。

「なあに? 僕忙しいんだけど」

「勇者様ですよね!? あ、あの……握手してください!!」

「別にいいけど」

 差し出された紅葉みたいな手を掴んで握手してやった。

 ちびっこは顔をぱあっと輝かせている、こんなのがそんなに嬉しいのかね?

「そういえばちびっこ。町中歩いてて思ったんだけど、近いうちに祭とかあるの?」

 昨日は特に気にならなかったのだが、全体的に町の住民たちに活気があるというか、あちこちにそれっぽい感じの飾りとかを見かけたから少し気になったのだ。

「うん! あるよ! あのねあのね!! もうすぐ地竜様が宝石とか魔鉱石をくれるの! だからそれをお祝いするお祭りがあるの!!」

「へえ…………そのお祭りっていつやるの?」

「えっとねえ……」

 ちびっこは僕と手を繋いでいないほうの手で指折り数えて、無邪気な笑顔を再び僕に向ける。

「四日後だよ! 勇者様もお祭り来る? 楽しいよ!」

「うーん……僕はこれから魔王をぶっ潰しに行かなきゃならないから……お祭りの前に終わったら来るかもね」

「ほんと!? うわぁい、やったー!」

 きゃっきゃとはしゃぐちびっこを見て、普通の子供って無知で無邪気だなあと自分の幼少期を思い浮かべてそう思った。


 僕が宿屋に着いた半時ほど後に他のメンツも集まったので、さっそく魔王の拠点に向かうことになった。

「ほ、本当に行くんですの? せめて明日の朝にしません?」

「今日。何お前、今更怖気づいたの?」

 僕がそう言うと魔術師はそんなことありませんわ、と若干顔を赤らめて言った。

「そう急すぎると思うがまあいいだろう。早く魔王を殺せるのならそれに越した事はないのだからな」

 魔剣士がニタリとそう言った、こういう戦闘狂がいると心強いね。

「それじゃあ、行こうか」

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