もういい、好きにしろ。勝手に無様に無駄死にすればいい
「無理だよ。だって君弱いもん」
たっぷり数十秒ほど彼女の目を見ていたような気がするが、すぐにそう答えた。
町長の屋敷を出た後に、気配感知を使って地竜様とやらの気配を見てみたのだ。
武器屋のおっさんが言っていた通り、この町のすぐ近くにある山にそれらしき気配を見つけた。
ついでに地竜様とやらがどうやって魔鉱石や宝石類を用意しているのかもわかった。
地竜様は僕よりも断然弱いが、普通の人間と同じくらい、というかそれよりも弱いかもしれない彼女があれを殺すのは不可能だ。
絶対に無理、そこら辺にいる雑魚い魔物が僕を殺そうとしているようなものだもん。
天地がひっくり返ろうが空から槍が降ろうが絶対に無理。
「だろうな。だが私はあれを殺す」
「へえ……? なんで?」
「復讐だ。あれは私の姉と友人を殺した。だから私があれを殺す。邪魔をするな」
「復讐ねえ……でも無理だと思うよ、絶対に」
本気で殺したいのは理解したけど、どう頑張っても彼女が地竜様とやらを殺す事はできないだろう。
「君、多分殺されちゃうよ。それどころか供物である君が地竜様を殺そうとしたら、地竜様が怒ってこの町の人達に危害を加えるかもしれないよ?」
そういうと、彼女はくつくつ、と小さく笑う。
口元がひどく歪んでいる、そんなに嫌いな顔ではないけれど、なんかちょっとヤダ。
「上等だ。こんな町、どうなろうと私には構わん」
むしろ地竜様とやらがこの町を破壊することを望んでいるような表情だった。
……なるほど、身内の仇は地竜様だけじゃなくてこの町も、ってことか。
というか、この町に魔鉱石を恵んでいる地竜様を殺そうとしている時点でこの町がどうなろうとどうでもいいのだろう。
というよりも……
「……ふうん。君としては地竜様を殺せれば万々歳、殺せずとも地竜様とやらが町に報復をすればそれはそれでよし、って感じか……」
「……まあ、そんなところだ」
「君ってば随分猫を被るのがうまいね。さっきはあんな聖人じみたことを言っていたのに」
「知るか。そう見えたんならお前らの目が節穴だったってことだろう」
歪んだ笑みのまま彼女はそう言い捨てる。
確かに気付かなかった聖女や町長達の目は節穴だっただろうねえ……
「それで、どうする? 君が助けてくれっていうのなら、僕は助けてあげるよ? 君の復讐を手伝ってあげる。僕なら地竜様も殺せるし、町の奴らも殺せるよ?」
「必要ない。他人の手を借りる気は一切ない。私が私の意志でやらなければ意味がない……」
「意地っ張りだねえ……」
「というかお前、本当に勇者か? 勇者というよりも、お前の言動はどちらかというと……」
「悪魔、でしょ? 地元にいた時のあだ名は大悪魔様だったし。でも残念ながら僕が勇者なんだよ。勇者の仕事は魔王を殺して、そのついでに救いを求める善良な人を助ける事だから。本性が悪魔じみているのは理解しているけど、仕事だから慣れないことをしなきゃならないのさ」
本当、なんで僕なんかが勇者やってるのかねと肩をすくめる。
身体が異様に頑丈だというだけでこんなことをする羽目になるとは、王都からの使者が地元に来た一年前まではそんな事思ってもいなかった。
地元で親友とかその辺の不良どもを巻き込んで馬鹿やりつつ大人になって、適当な年齢になったらひょっとしたら結婚しているのかもしれない、っていうごくごく普通の人生を歩むばかりだと思っていたのだけど、うまくいかないものだ。
「なんだ、自覚あったのか。……なら本当にお前の助けは必要ないよ。私は善良ではない。やろうとしていることはどちらかというと悪人じみているし、お前に助けを求める気は一切ないからな……お前に頼みたいことはただ一つ、この町では何もするな、私が死ぬ前も、死んだ後もな……まあ別に聞かんでいいよ、町の奴らがお前に助けを求めるのならそちらを優先すればいい。なあ、勇者様?」
「ふうん……結局決心は変わらないんだ」
「変わらないよ。私は勇者なんかの力は借りない。お前の助けなんかいらない」
「かわいげのない女」
自然、口からそんな言葉が漏れていた。
……もういい、好きにしろ。
僕は勇者だ、救いを求める声には答えるが、助けを必要としない者を救う必要はない。
「勝手に無様に無駄死にすればいい。助けを必要としないクソ女を助けるほど、僕は暇じゃない」
そう言い捨てて、僕は鉄格子に背を向けて転移魔法を発動させた。
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