僕の親友は結構不憫
町長の家は案外早く見つかった。
町の人に聞いたらあっさり教えてくれたのだ。
というか教えてもらう前にそれっぽいとあたりをつけていた家だったので、聞かなくても普通についていただろう。
町長の家はこの町で一番大きな家……というか屋敷だった。
「おそい……」
心なしかげっそりした気がする親友にこれでも急いだ方だと飄々と言っておく。
「それより見てくれよ、僕のおニューのメリケンサック! いいだろー、かっくいいだろー」
何もわからない無邪気なふりをしておニューのメリケンサックを見せびらかすと、奴はなぜか疲れたような顔で溜息をついた。
「勇者様、無事に武器を見つけられて何よりです」
聖女がそう笑いかけてくる、本心からそう言っているのかただの愛想なのかはちょっとわからなかった。
「おい、勇者、それ少し見せてくれ」
「いいよー」
武器マニアの魔剣士がハイエナのような目で近寄ってきたのでおとなしく見せてやる。
「……ずいぶんと質のいいものを手に入れたな。どこで手に入れた?」
「この町で一番大きな武器屋で。なんかこの町、地竜様? とやらの恩寵のおかげで質がいい魔鉱石がいっぱいあるんだって。君が好きそうな武器がいっぱいあったからあとで見にいってみたら?」
「そ、それはぜひ……!! こいつの武器も欲しいところだしな」
と、魔剣士が親友の肩をバシバシ叩いた。
「こいつに武器はいらんと思うけどなあ……」
「それでもないよりはましだろう? 何が起こるかわからないのだから」
「そりゃそうだけどねえ……その前に僕と君らが何とかするだろう?」
「む……それは当然であるが……」
このやり取りって何回目だっけと、話している最中に思った。
毎回似たような会話をしているが、結局この話の結末は毎回同じだ。
「こいつの言う通り、俺に武器は必要ない。俺は医者だ。何かを傷付けるわけにはいかないんだ」
「てめーまだ医者じゃねーだろうが」
一応突っ込んでおいた、実力はそんじょそこらの医者よりもずっとずっといいことは理解しているが、こいつはまだ医者ではない。
「誰のせいだと……」
恨みがましい目で睨まれた、よく知らんが僕がこいつをこの旅に同行させたせいでこいつは年に何回かある医者の試験を受けられなかったらしい。
「悪い悪いて……」
両手を合わせて謝る、悪いと思っているのは本当だった。
でも本当に悪いのは一人旅を許可してくれなかった王様なのだとこの場にいない人に責任を押し付けておく。
「あなたの実力なら試験を受けずとも結果は一目瞭然よね。どう? この旅が終わったら学術都市の医者として働かない? 給料は弾むわよ?」
魔術師がそう言って若干胸を強調する誘惑ポーズをとる。
「ま、待ってください……ぜひ王都の教会で……」
聖女が焦ったようにそう言った。
それを皮切りに他のメンツも何か言おうとしたが、その前に奴が口を開く。
「俺は地元に戻る。地元に戻って、家を継ぐんだ」
決意を固めた表情で奴はそう断言する。
この旅を通じてもその幼いころからの夢は変わっていないらしい。
家を継ぎ、自分の大切な人達を怪我や病気から守る。
その信念は昔からずっと変わらず、むしろより固くなっている。
……そう感じ始めたのは今から2年ほど前の話で、後々聞いた話によると、惚れていた女の子が死んでしまった後だったらしい。
……不憫な奴。
好きになった女、それもこいつの顔を見てもそれほど恐れなかった稀有な存在を失ってしまうなんて。
しかもこいつは治癒術師だ、生きてさえいればどんな傷でも治せるくらい飛び切り優秀な。
救えなかった不甲斐なさと後悔はひどいものだっただろう。
奴の表情からただならぬものを感じ取ったのか、女共はみんな黙り込んでしまった。
「あ、あの……」
と、そこで知らない声が割り込んでくる。
声が聞こえてきた方向に目を向けると、メイドっぽい恰好をした女がこちらを見ておろおろしていた。
僕等がいたのは町長の屋敷の中にある広い部屋。
町長が屋敷に戻ってくるまでとここに通されたのだ。
「は、はい……何でしょうか?」
聖女が慌てた様子で返事をする。
メイドの話によるとどうやら町長が戻ってきたらしい。
メイドと聖女が少し会話をした後、町長が部屋の中に入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます