ねえ、町長。この子は悪い子? それとも町長が悪い人?

 町長が部屋に入ってきた後は歓待という名の質問攻めを食らった。

 こういう話は僕はすこぶる苦手……というか面倒なので質問の答えは聖女たちに任せきりにして、僕は時々口を挟むだけにしておいた。

 時々こういう風に訪れた先のお偉いさんに呼び出されることがあるが、毎回こんな感じに乗り切っている。

 僕はお偉いさんからすると下町育ちの下品な身分であるため、会話の方法とかが根本的に違うらしい。

 そのせいでいろいろ会話に齟齬が出て妙な誤解を与える事があるらしい。

 だから極力黙っていろと言われたのはいつ頃だっただろうか。

 ちなみに親友も基本だんまりだ、というか僕ら以外からするとただの下町育ちの治癒術師である奴にお偉いさんの興味が行くことはまれな事だから、当然といえば当然だ。

 畜生うらやましいなと思ったことは結構ある。

 聖女たちの話を聞き流しつつ、いつもの癖で気配感知を使った。

 屋敷の全貌とかどこに何がいるかを大まか把握したところで、妙な気配を感じた。

 屋敷の地下部分、そこに一つだけ弱々しい人間の気配があった。

 それだけなら特に気にならなかったのだが、よく見るとその人物は鉄格子の中に閉じ込められているようである。

 なんかそれっぽい物質配置がされている気がする、というかやっぱり閉じ込められてるやこれ。

 なんでこんなところに閉じ込められているんだ?

 罪人だとしてもこんなところに閉じ込める必要はないだろう、普通に刑務所とかにぶち込めばそれで済む話だ。

 それなのに何故この町一番のお偉いさんの屋敷の地下に?

 何やら事件の面白い気配を察知した。

「すみません」

 話の腰を折って、トイレに行きたい旨を伝える。

 そうするとさっきのメイドさんがご案内しますと先導してくれた。

「ごめんね」

 部屋を出て、少し離れた場所で僕はメイドさんに謝りつつ、彼女の首に人差し指を軽く叩き込んだ。

 あっけなく気絶したメイドさんを壁にもたれかけさせて、地下に向かう。

 気配を察知しつつ地下に向かう。

 地下に繋がる階段はパッと見ではわからないように偽装されていたが、加護で与えられた感知能力のおかげですぐに見つかった。

 偽装を引っぺがして暗く黴臭い階段を下る。

 下ると金属製のドアが見えた。

 どうやら魔鉱石をふんだんに使った頑丈なドアであるらしい。

 ドアノブに手をかけてみたが、押しても引いても開かない。

 鍵がかかっているようである。

 ……と、なると。

「よぅし、お前の実力、さっそく確かめさせてもらうぞ」

 おニューのメリケンサックをはめて、そこそこ手加減しつつドアを殴った。

 どかん、と大きな音を立てながら僕の右腕はドアをきれいに貫通した。

「あれま……」

 腕を穴から引きずり出す、綺麗に丸く開いた穴と傷一つないメリケンサックを見て、確かにこのメリケンサックの性能はよいものなのだろうと思った。

 だけどこれでは全く意味がない。

「しゃらくさーい」

 手加減しつつドアを蹴飛ばす。

 今度はうまくドアを外すことに成功した。

 結構すごい音がしたけど、別にどうでもいいや。

 蹴破ったドアを足でどけて、中に入る。

 部屋の中は魔術で作られた小さな光で照らされていた。

 まず目に入ったのはこれまた頑丈そうな鉄格子。

 そして、鉄格子のなかに閉じ込められている自分と同世代の少女の姿だった。

「こんにちはー、はじめまして。君は何者?」

「…………」

 フレンドリーに話しかけてみたけど、少女は目を見開いて何も言わなかった。

 どうやら驚いているようである。

 見た感じはやっぱりどう見ても普通の女の子だった、魔力もそんなにないし、全然強くなさそう。

 それなのになんでこんなところに閉じ込められているんだろうか?

 時々特殊だったり強い魔力を持っている子供を厳重に封印、というか閉じ込めているところがあったから、その類なんだろうかと思ったけど、やっぱり違った。

 普通の女の子だ、ちょっと痩せてているし目に隈出来てるから不健康そうな感じだけど。

 だとすれば、やっぱり……

「ねえねえ、君って悪い人? それとも町長が悪い人?」

 鉄格子に歩み寄って問いかけてみる。

 やっぱり女の子は答えてはくれなかった、警戒した様子でこちらを睨んでいる。

 あ、かわいい。

 全然かわいげのないその態度に何故かそう思った。

「君が悪い人じゃなくて、町長が悪い人なら、君を助けてあげてもいいよ? だって、僕は勇者だからね!」

 にっこり笑ってそう言った。

 そう、僕は勇者。

 魔王討伐が主なお仕事だけど、助けを求める悪くない人を助けるのも大事なお仕事なのだ。

 だから、助けてほしいと願うのなら、助けてあげる。

 だけど、やっぱり女の子は何も言わずにこちらを睨んでいるだけだ。

 困ったなあ、ひょっとして喋れない子だったりするのだろうか。

 このままだとどうしようもできない、と思ってたら背後から慌ただしい気配が。

「な、何事だ!! 何が起こった!? ……っ!!? 勇者様!? 何故このようなところに!?」

 振り返えるまでもなく、その声は町長の声だった。

 その後ろの親友と女共の気配も感じ取る。

 振り返って、町長に笑いかける。

「ねえ、町長。この子は悪い子? それとも町長が悪い人?」

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