つつがなくおニューのメリケンサックを手に入れた
……美少女に囲まれた親友が少し離れた場所で町の様子を見ているふりをしている僕をめっちゃ見てくる。
地元では鬼や悪魔と例えられた非常に目つきの悪い恐ろしい顔には、その顔のせいで地元で大悪魔の異名を持っていた僕に勘違いされること通算100回オーバーの顔には非常に困った何とも言えない表情が浮かんでいた。
おいやめろ、僕にそいつらをどうにかする話術はねえよ、知ってんだろお前も。
視線だけでそう訴えるが、こちらを見つめる視線は変わらない。
気付かないふりをしつつ、なんでこうなったんだろうかと回想する。
……まあ、単純に奴が顔に全く似合わない超お人よしだったからなんだろうなあ……
僕みたいな人格破綻者とまともに付き合えるのは僕と同じくらい破綻しているか、破綻していることを気にしない変人か、もしくは正しくないことを正しくないと叫んで間違った道から別の道に引き戻す力を持ってるような奴くらいだからな。
僕の近くだと姉上様が一つ目で、姉上様の友達の一部が二つ目で、奴は三つ目だ。
多分こいつがいなかったら僕はとっくの昔に犯罪者だっただろう。
そんないいやつなのである、外見を度外視すれば女子にモテないわけがない。
実際僕が奴を紹介したときに、その顔面の怖ろしさに恐れおののき、本当に治癒術師なのかと死ぬほど確認してきた女共もこの一年で奴の性格に心酔してすっかり虜になっていた。
悪魔じみた顔のせいで地元では死ぬほどモテなかった、というか女に避けまくっていた奴はそのことに心底困惑した、というか今もしている。
目線だけで助けろ、と訴えられるが、同時に6対の目に邪魔をするなと睨まれる。
親友のために行動するのが人間として正しい行為だとはわかっているが……
ちょっと面倒くさいなあ……
後々女共に囲まれてねちねち言われるのも嫌だし。
それに、目線で助けろと訴えてきているのは十分理解できるけど、助けろとは言われていないし。
「僕、武器屋行ってくるー。この前壊れたメリケンサックの変わり探さなきゃだし。それじゃあ諸君、宿でまた会おう」
グッバイと手を振って町中に駆け込んだ、ちょっとでももたついていると俺もついていくといわれかねないので。
「……!!」
親友から裏切ったな貴様と超怖い顔で睨まれたけど、見慣れてるから全然怖くないしい。
と思ってたら、奴……というか奴らの近くを歩いていた通行人たちがぎょっとした表情で奴から距離をとる。
あと5歳と7歳くらいの小さい子供の兄妹が大声でわんわん泣き始めた、あーあ……子供泣かすなよ。
でも僕には関係ないし、と足早に人通りの多い街道を駆け抜けた。
街道を華麗に駆け抜けた僕は無事この町で一番大きい武器屋にたどり着いた。
「こんにちはー。メリケンサックってありますかー?」
店員にそう問いかけると、いかついけど親友よりも怖くない顔のおっさんがメリケンサックがあるところまで案内してくれた。
いくつかあったのでそれを見比べる。
僕は加護の有無かかわらず力が強いらしく、よく武器を駄目にするのだ。
だからそこそこ性能が良くて頑丈なものを選ばないとすぐに壊れてしまう。
この前壊れたのはよく持ってくれたほうだが、これで駄目にしたメリケンサックは5個目だ。
店にあるメリケンサックを見比べる、せめてこの前壊れたばかりのあれと同等のものが見つかればいいのだが。
「あれ?」
メリケンサックを見比べて思わずそんな声が出ていた。
「何か?」
案内してくれた店員がどうかしたのかといったような表情でこちらを見ていた。
「いやー……ちょっと驚いただけ……ここにあるのずいぶん質が良くない? その割に安いし……」
そう、質が良すぎるのだ。
どれも前回使っていたものよりもずっと性能が良くて、頑丈そうだ。
それだけならそこまで驚かないのだが、値段が恐ろしく安い。
高いものでも前回のものの半額、安いと2割ほどだ。
「ああ、ひょっとして旅の方か? なら驚かれるのも無理はない。この町は地竜様の恩寵があるから、質の良い魔鉱石が手に入りやすいんだ」
「地竜様……? なあにそれ?」
「この町のすぐ近くにある山に古くからお住まいになっている古い竜さ。毎年供物をささげることでこの町は地竜様が作り出す魔鉱石を賜っているんだ。おかげでこの町はとても栄えているんだよ」
「ふうん……」
成程、だからこんなに性能のいい武器が安値で売られているわけだ。
改めて周りを見渡してみると、メリケンサック以外も質がいい武器がわんさか。
うわーお、武器マニアの魔剣士が見たら悲鳴上げながら買い占めそう。
なんてことを思いながらいくつかあるメリケンサックを見比べて、一番性能が高そうなものをチョイスする。
値段もやっぱり一番高かったが、それでも前回のものの半額なのだ、惜しむ必要はないだろう。
「んじゃ、これ買うよ」
「毎度あり」
つつがなくおニューのメリケンサックを手に入れたので、次はどこに行こうかと店を出たところで、真っ白な小鳥が僕のもとに飛んできた。
「ん?」
僕の目の前で白い小鳥は一枚の紙っぺらに変化する。
魔術師からの連絡だ。
地面に落ちかけた紙っぺらを空中でキャッチして書かれている文字を追う。
「えーっと……何々……待ち合わせ場所変更、宿屋ではなく町長の家……? 勇者一行である僕らを町長直々に歓待したい、と。えー……」
僕がいなくなった後にどうも面倒なことになったらしい。
面倒くさい……歓待とかいいから放っておいてほしい……
だけど行かないと行かないで面倒なことになることは目に見えている。
仕方ない……
「てゆーかどこだよ町長の家……魔術師の奴、地図くらいは書いとけよ……」
まずはそこから調べなければならないことに僕は深々とため息をついた。
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