アイト・フォン・ツーナイグング

相生隆也

第1話

その日はどこかおかしかった。日差しがいつもより強く感じる。

第23世界メガクリテ

評議会議長パルテは車に乗る前にそう感じた。


翌週、一向に収まらない日差しの問題に対し、緊急議会が開かれた。

議会に集まった1人が立ち上がり、

「私が、これまでの経緯を説明させていただきます。

まず、先週の月曜日から冬であるのにかかわらず、半袖でも暑いほど気温が高まりました。そして火曜日の深夜から水曜日の早朝にかけて第1世界ウェヌスに渡るゲートが閉じ、しばらくして他の世界全てのゲートが閉じたことがわかり、この度の緊急議会が開かれました。また、ゲートが繋がっている他の世界も同様の現象が起きております。また、原因解決策などが判明しておらず、研究機関からは賢者を頼る他ないと……。」

そこでパルテが手で制し、

「とまぁ、こんな現状だ。私はどうにか賢者を頼ろうと思っているが君たちはどう思う?」

この発言に議会にいた全員が驚いた。

「議長!あんな老害を頼るなど!」

「ゲートが閉じてしまったことは問題ではあるが、賢者に頼るほどの問題ではないだろう!」

各々が口々に文句を言う。

「静粛に!…静かになったな。諸君らは、ゲートが閉じてしまったことを問題視しているみたいだが、この問題の一番の問題は気温の上昇だ。先ほどの説明では一度も太陽放射、つまり太陽光が増加したとは言っていない。真に上昇したのは、地熱いやこの星の熱放射である。」

「その通りだ。」

画面に老人が映された。

賢者である。議会に参加した面々が立ち上がり、頭を下げた。

「今は頭を下げている場合ではない。…君たちだけが、正確には君たちの世界だけが頼りだ。他の世界の住人はこの件を問題と理解できずにいる。嘆かわしいことだ。」

賢者は胡散臭い仕草でそう告げた。

「賢者殿、他の世界の住人はなぜ問題視しないのですか?」

1人の議員が質問をする。頭の中では分かっていても信じたくないのだろう。

「言わずともわかるだろう、思考を誘導されておる。そして、互いを憎みあうようになっとる。この世界だけは儂が手を回せて症状を緩和できた。…他の世界の住人は、愛を忘れてしまっとる。儂だけでは、如何ともしがたい。」

「賢者殿、我々はどうすれば……?」

代表してパルテが質問する。

「ふむ。此度の事件を解決するには他人に愛を教えられる心優しい者の助けが不可欠だ。」

そこまで、賢者が話すと議会に参加した皆がパルテの方を向いた。

「議長、議長には優しい娘さんがいるといつも自慢していらしたが……。」

「私も聞いたことがある。何でも亡くなった奥さんの代わりに慣れるように毎日家事をなさっているとか……。」

「私は会ったことがある。議長が忘れた弁当を届けに来た時には、慈愛に満ちた表情で挨拶を受け……。」

「はぁ……。」

パルテはため息を禁じ得なかった。

「わかった、わかった。娘には私から伝えよう。」

両手を挙げてそう言った。

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