決別・16


 秋。

 枯葉舞い散る中。

 エリザは、多くのものを失った。


 ラウルがいなくなった家は、がらんと広くなったような気がする。

 元々、そこはジュエルと二人で住んでいたところなのに。

 エリザは、その寂しさに耐えなくてはならない。

 そして。

 今や、あのように別れた最高神官に、何も頼れない。

 エリザは、朝夕の祈りをすることができなくなってしまった。

 エリザに残されたものは、ジュエルだけだった。



 ラウルが旅立ってすぐのこと。

 ララァがお別れを言いに来た。

 なかなか軌道に乗らない店をたたんで、エーデムに行くと言う。妹のアウラも一緒だ。

「……やっぱり、弟の事だから気になるの。家族会議をして、ラウルを追いかけて行こうってことになったの」

 荷物をまとめながら、ララァは言った。

 一の村に来てから、ララァ一家とラウルには、本当に世話になった。

 なのに、こんなことになってしまった。

 荷物の中に、真っ白い絹の生地が残っていて、エリザは視線をそらした。

 本当ならば、二年後、エリザはその生地で仕立てられた衣装を着て、ラウルの横に立っていたはずだった。

「ねえ、エリザ。今からでも遅くない。もしも、あなたに気持ちが少しでもあるなら……私たちと一緒に行かない? この人数だったなら、どこでも故郷になり得るわ」

 ララァは、名残惜しそうに言った。半分、エリザの答えを知っているかのような、誘いだった。

「私は……ムテから離れられないわ」

「そっか」

 一瞬、うつむいたララァだったが、再び頭をあげ、微笑んでみせた。

「残念だったわ。あなたが好きだったし、妹にしたかったけれど……。ラウルのヤツ、結局、太陽や月や星には敵わなかったのね」



  ***



 その後……。

 ラウルはシビルの期待通りの細工師となった。

 多くの名品を世に送り出し、ウーレンやエーデムの歴史にその名を刻んだ。

 彼は義足であったが、山歩きが好きで、時には自らの手で採石することもあった。

 ムテらしい長寿だったが、一生独身を通した――と、エーデムの歴史書には残されている。



=決別/終わり=

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