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大食堂の中心で目立っている風体の四人の内を構成する女生徒二人は学内でも様々な方面から注目を集めやすい。暗黙の了解、と言うやつだ。方や聖女、方や悪女と評される対極の者。双方が今向かいあって座っているだけでも事情を知る者からすれば目玉が飛び出る光景だろうに、じろじろと遠目に見てくる割にはさっと不自然に横切る動作から察するに、もう昨日のように絡んでくる程の無謀さも消え去ったらしい。そりゃあそうだ、また揉め事でも起こしたら今の空気じゃ連帯責任にされかねないだろうから。二人の王の威厳に泥を塗る行為、として。
そろそろ生きましょうか、と四人で席を立つ。午後の座学の講義が眠くならないようにしないと、などと学生気分が少しだけ降りてきた。昼の休息の時間もあと十分程で終了する、午後から夕方までもここにいる間に、農園で何と何と何と何が出来る、と自然に計算してしまっていた。
学業に従事すると言うのは一日の大半を使うことであるのだなあと、今まで農家一辺倒だったことによる僕の世界の狭さを知らされているようで少し暗くなってしまいそうだ。こんなにも家から離れなければならないこと、肉親から離れてしまうこと、相性があわない人間にとっては籠のように感じるのではないだろうか。いや、僕が例外すぎるのかもしれない、教育が国の隅々にまで行き届く恵まれ過ぎた環境の中で、前世と現世の魂の違いで戸惑い続けたお陰で学校に通うことさえも拒否していたのだから。この歳でこう言う生活形態になれていない方が、一般人の世界ではおかしいと言われるのだろう。
良く言えば充実した環境、悪く言えば時間を相当奪われる施設が学校なのだろう。そんな場所の、長い講義等もさぼろうと思えば幾らでもさぼれるだろうに、エリーゼはお義兄様の為にも敵しかいないこの場所に戻っているのだ。毅然とされている。その思いを踏み躙る人間が今後も現れないことを願うばかりだ……例えその人間が、「過去にエリーゼに踏み躙られたこと」を言い訳にしようが、矛先を彼女に向けた時点で僕からは絶対に許されない対象へと見られるのだから、今後来るならそれくらいの覚悟くらいはしてほしいものだ、なんて身の程知らずにも強く思う。
「流石に、王に叱られたばかりだと変な輩も絡んで来ませんね。堂々と出来過ぎて、足を組んで座ったことですら快感になりそうですよ」
「まあ…いや…あの王様に直に叱られたっての、結構ショックに思ってる奴ら多いしなあ…」
「そりゃあ憧れの人に手厳しく言われたら落ち込みますよねえ」
大食堂を立ち、廊下へと行く間に僕とスオウくんは自然とヒイロとエリーゼを内側にして、外側からついて歩く。…やっぱり、こんな時でもずっとヒイロの側についていてくれるスオウからは、彼女を本当に大切に思っているという心が伝わってくる。慣れたように彼女の隣を埋めるのも、以前に教会で会った時も、僕が見た彼の姿は一貫してヒイロの側にいる彼だから。今この時点でこの場に、何もかも投げ捨てて他の攻略対象がヒイロの隣にもいないと言う事実が全てを物語っている気がする。ヒイロの、これからもエリーゼに関わり続けたいと言う意思に寄り添って行動出来ているのは、スオウだと思うのだ。贔屓目で語ることを許してほしいが、この世界では、僕はヒイロとスオウが結ばれて欲しいと願う。…最終的に誰がどんな人生を選ぶかなんて、僕には強制出来ないけれど。
「それじゃあ、一旦ここで。楽しい時間をありがとうございました、二人とも」
「い、いえいえ!お二人が一緒にいることを許してくれたからですよ、こちらこそ突然押しかけて失礼いたしました」
「全くだぞ、ヒイロ。…次からはせめて事前に言え、そうすれば少しは許してやろう」
「……っ!はい!はい、エリーゼ様!」
じぃん、と。次があることを示唆されたと感激に打ち震えるヒイロがいて。スオウは相変わらず、複雑な表情をしていたが。嫌な顔をしつつも握手をせがまれ、手を差し出したエリーゼへ満面の笑みを浮かべている様子のヒイロに。彼もつられていた。
スオウくん、と。彼の肩を叩き、僕は口元を隠すように右手を持ってきて、耳貸してと静かな声量で伝える。怪訝な様子だったが、仕方無しに近くまで来た彼を見て。余計にお節介をかけたくなったのは秘密だ。
「一人の女性を誘拐したような身で言うんだけどね。…他の人にヒイロちゃんを譲りたくなかったら、想いは早くに伝えた方がいいよ」
「ーーーっせぇな、わかってんだよそんなことは、……いつかやるわ、言われねえでも!」
頬を染めて、僕の手を振り払う。行こうぜヒイロ、と強引に彼女を促して先を行く背の側では。こちらに頭を下げながら彼へ追いついていくヒイロがいた。
いけないことを言っていいだろうか、実に、彼等は応援のし甲斐がある。幸せになってほしい、そう思うのだ。
「箔と自信だけは立派についたねえ。襲える度胸はまだ無い癖して」
「くっ…!え、エリーゼ様。それ僕以外の前で絶対言わないで下さいよ、僕専用の乏しにして下さい、」
自分を狼だと思い込んでいる子犬で申し訳無い。からかうようにエリーゼから肘で銅を突かれ、偉そうにスオウにアドバイスしてすいませんでしたと苦笑しながら返して。
こんな昼下がりも良いものだ、前世ぶりの学生生活に懐かしさを感じた時間は、あっという間に平穏に終わっていた。
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