第10話 祭り①

初日から、山神祭は大盛況。僕らの店も、限界のピッチで回して、やっとくらいに混んでいる。それにここは踊りが一番良く見える。毎年のことだけど、すさまじい混み具合だ。僕は時間を気にしながらの作業を進める。追い駆け山車までは、まだ少しだけ時間がある。でも、このままの混みようで僕が抜けたら、回らないんじゃないか?心配になってきた。そして、その心配を後押しするように、お客さんは増え続けていく。まずいなぁ。チラッと店の奥を見る。空人君のパスタの茹で方が神域に到達し始めている。すでに芸術といってもいい。流れるようだ。竹中君は恐ろしい素早さで、代金とお釣りをやりとりしている。一応用意したレジスターが全く使われていない。僕はひたすらパスタソースを作り続ける。そろそろ何かの真理に到達しそうだ。しかし、この神がかり的なスピードを上げる持ってしても、客足は途絶えない!なんか8回くらい同じ人を見た気もする。

時計を見る。現在8時。踊りが終わるのが9時。追い駆け山車はその30分後にスタートだから、あと1時間くらいしかない。しかし、問題は踊りが終わったあと。踊りを見ていた人たちがはけて、別の場所から人が押し寄せる。それが今思いつく最悪のシナリオ。しかし、予想とは裏腹に、どんどん客足が引いていく。理由は、多くの人が、追い駆け山車に出るからだ。当日の飛び込み参加も出来るから、参加する人は多い。最後の一人を処理すると、材料はちょうどなくなった。そして現在9時ジャスト。もはや奇跡としか言いようがない。

「よし、じゃあいってこい。山車の方。」

「あとは任しとけい!」

洗い物を片付けてから行こうと思ったけれど、二人が引き受けてくれた。やったぜ。


山の方に急ぐと、琴音さんはすでに来ていた。

「すみません。遅くなって。」

「いえ、私も今来たところです。」

軽く挨拶を交わすと、追い駆け山車のルール説明が始まった。

「えー、まぁ、ルールというほどのことでもないですけど、ゴールは必ず二人同時に、自転車とかは使っちゃダメ。それ以外なら、登り方はなんでもいいですから。」

実行委員長の田辺さんの説明には覇気がなかった。あと、上位8ペアは、最終日の決勝に出られるらしい。

「あ!三風!それに、琴音!!何やってんだこんなところで!」

「うわ!足の遅い人!!」

「せめて先輩と言え!!」

いい感じで琴音さんと走ろうと思ってた計画が音を立てて壊れていくのがわかった。現実とはなんと無残で残酷なのだ。

「先輩。こんばんは。」

「おう、琴音。今日こそ、こんな筋肉野郎より、俺様の方がいいと分からせてやるからな。」

そ、そこまで言うかな。でもこの時、琴音さんは初めて、あからさまに嫌な顔をした。その原因はわからないけど。

「ん、あれ。先輩、一人ですか?」

「ふん!バカ言え。彼女も来ている。」

「え、彼女いたんですか!」

「お前ふざけるなよ!?彼女くらいいるわ!彼女くらい!!」

なんとも驚きだ。彼女がいながら琴音さんを狙うとは。とんだナンパ野郎だ。

「で、その彼女の前で、そーゆーことするんだー。ふーん。」

先輩の顔から血の気が引いた。後ろには小柄な女性が立っている。

「ごめんね。うちの彼氏が。後でシバいておくから。おら、行くぞ!」

「はいっ。」

完全に尻に敷かれている。何はともあれ、難は去った。

「そろそろスタートでーーす。」

覇気のないアナウンスが流れて、みんなが準備につく。まずは山車が発車した。その1分後にスタート。カウントダウンは、残り20。僕は琴音さんを背負う。通学に使うリュックより軽い気がする。8...7...6...。左足に力を込める。4...3...2...1..。腰を浮かせる。

0!ザザッ!!

好スタート!一瞬で集団から抜き出た。背中に柔らかさの権化が押し付けられてるけど、気にしないことだ。とにかく走る。すると前方に山車が見えてきた。距離50。さらにピッチを上げる。

そして、山車に並ぶ。











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