第8話 秀くんと奈菜
朝が来た。先輩をけちょんけちょんにした日から数日だったけれど、ほとぼり冷めただろうか。今日は、一学期最終日。というわけで明日から夏休みだ。たくさん遊んでバイトして、充実させなければ。あとは、山神祭にも出て。楽しみがいっぱいだ。
さて。一学期も終わる今更、気がついたことがある。僕は毎日、秀くんと、空人くんと登校しているけど最近秀くんが、やたらと奈菜に近い。それ自体は問題じゃないんだ。秀くんは真面目だし、間違いを犯すような人ではないけれど、何かあったのだろうか。今日も、僕と奈菜を含め4人で登校する。奈菜の隣には秀くんだ。そのまま10分くらい歩いて
分かれ道で奈菜と別れる。秀くんはずっと手を振っていた。なんだろう。やっぱり奈菜のことを、他の人とは別にみている気がする。少しの疑問を携え、校門をくぐる。
「よう、三風。琴音は、一緒じゃねーのか?」
「うわ!出た!足の遅い先輩!」
「お前が速すぎるんだ!!」
さっき、ほとぼりは冷めたかな、とか書いたけど、毎日このやり取りをしているから冷めることはなかった。僕は三人で逃げるように教室へ向かった。
今日は4時間授業で終わり。みんなは早くも夏休みモードだ。僕は琴音さんに話しかける。
「明日から夏休みですねー。」
「はい。風矢くんは、何かご予定はあるんですか?」
「まぁ、バイトしたり遊んだり…、あ!後は山神祭に出たり!」
「そうでしたね。楽しみです、山神祭。」
琴音さんは知っている。みんなには説明したかもだけど、山神祭は、この神ヶ島の祭で、島全土が祭に参加し盛り上がる。この島の数少ない収入源でもある祭で、海外の旅行雑誌なんかにもなっているらしい。僕は毎年出店して、パスタを売っている。今年は奈菜もやりたいって…。そこで思い出した。
「そうだった。琴音さんに、言いたかったことがあったんですよ。最近、秀くんが、奈菜ととっても距離が近いんです。何かあったんでしょうかね?」
「私はよくわかりませんが…、あ、もしかして、ヤキモチ、ですか?」
「いや!違いますよ!第一奈菜は妹ですし!」
「ふふっ。でも、それは気になりますね。でも、秀さんは、賢いですから間違いが起こるようなことは無いと思いますけど。」
「ですよねぇ。僕もそうだと思ってはいるんですけど…。」
なんというか、奈菜が少しだけ遠くになってしまった気がする。暑さで体力は減っていくけど、この気持ちは消えてはいかなかった。
家に帰ったら、奈菜は先に帰ってきていた。僕と同じく明日から夏休みなので、ご機嫌はものすごくいい。時計は午後5時。少し早いけれど、
「晩御飯にするか。」
そう言って台所に向かう。今日は素麺だ。麺は手打ち。近所のお蕎麦やさんの技術を盗んできたのだ。結構多めに作って、麺つゆもちゃんと手作り。後は薬味を用意して完成だ。
「我が妹よー。できたぞー。」
二階の奈菜を呼ぶ。軽くて早い足音がリビングに迫ってくる。
いただきます。
これも習慣。しばらくは、学校のこととかを話し合っていたけど、僕は聞きたかったことを切り出した。
「最近さ、秀くんと仲良いけどなにかあったの?」
ポッ。明らかに奈菜の顔は赤くなった。なんというか可愛い。
「竹中さんは、優しいし、頭もいいしかっこいいから、昔から憧れてて、最近はたくさん話せるから、嬉しいなー、って。趣味とか結構合うし、楽しい人だなって思う。」
ああ、そういうことか。
開けた窓から入ってくる風を感じながら、僕は、奈菜が、少し遠くなってしまったと、一人で思った。
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