第1話 朝
静かに目を開ける。いつもの白い天井に跳ね返る日光でわかる。やっぱりいい天気だ。いつもと変わらない、島の朝だ。僕の住んでいる島、神が島は人口800人程度の人の少ない島だけど、東京二十三区の半分くらいの面積があり、尚且つ若者が多いという少し変わった島だ。僕はその島の一校しかない高校で高校生をやっている。入学してからもう1か月になる。ほとんどみんなが幼稚園から知っている人だけど、仲がいいから離れることがなくてうれしい。今日は学校は休みだけれど、友達と遊びに行くことになっている。さっき立てた予定では、先週開いた海かな。二階からリビングに降りる。いつもの習慣同様、朝のコーヒーを淹れる。この時間の間だけは死んでしまった両親とつながっていると感じることができる。僕は二人分のコーヒー豆を挽いて、水を火にかけてから二階に声をかける。
「奈菜。コーヒー淹れるから降りといでー。」
しばらくしてから眠そうな声が上がる。ちょうど鳥のようなかわいらしい声だ。
「ふぁぁぁーーーい…。ちょっと待ってぇーー…。」
この返事の主、三風 奈菜(みかぜ なな)は僕の妹であり唯一の肉親だ。奈菜まであの事故で死んでしまっていたら、僕は後を追ったかもしれないな。今は自慢の妹であるとともに、僕の心の支えになっている。
ぱたぱたとはだしの音がして、リビングに妹が現れた。ランニングにパンツという恐ろしくラフな格好である。兄である僕が言うのもなんだが、奈菜は恐ろしく美人だ。スタイルもよく、背も高い。顔とスタイルは母さん、背丈は父さんから、両方のいいところをとって育ったようだ。頭もよく、高校からは都内のほうの私立高校に特待生としての入学が決まっている。それに引き換え僕は、2メートル18センチの巨体と細マッチョ体型、体脂肪率4パーセントってことぐらいしか取り柄がない。みんな顔はいいと言ってくれるけれど圧倒的スキンヘッドのせいでいつも怖がられてしまう。友達はたくさんいるけれど、いまだに彼女はいないんだよなあ。くだらない自己紹介が終わるとともに、コーヒーがはいる。苦みとほのかな酸味に舌鼓を打ちながら、チビチビ飲み進めていく。コーヒーは少し冷めてからが美味しい。お母さんに教わった。奈菜と同じタイミングで飲み終え、奈菜には学校に行くように言う。この島の、やっぱり一校しかない中学校には弓道部があり、奈菜はそこのキャプテンだ。道具一式は高価なので、僕が作った。手先が器用でよかったと思った一瞬だった。奈菜はすぐに制服に着替え、道具と家の鍵を持って玄関から出ていく。
「行ってらっしゃい。」
そう声をかけて見送る。僕も出かける準備をしよう。使ったコップを洗って干す。歯を磨くのと顔を洗うのと着替えるのを同時進行で行う。後は家を出るだけだ。戸締りを確認して玄関のドアを開ける。それから一言、
「行ってきます。」
声に出す。これも習慣なんだ。
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