第3話 段落の最初は一文字下げる。改行の際も同じ


② 段落の最初は一文字下げる。改行の際も同じ。ただし「」の場合はこれに限らず。


「……うん。次は段落の話だねぇ~」

「――お、おう……」


 少しだけ彼を眺めていた彼女だったが、軽く頷いてから微笑みを浮かべて次の話題を切り出していた。

 ノートの文字を目で追っていた彼は、彼女の声に慌てるように視線を彼女へ合わせると、緊張しているような声色で返事をするのだった。


「と言うか……お兄ちゃん、段落なんて小学校で習ったはずだよぉ~」

「……たしかに」


 ジト目で伝えられた彼女の言葉に彼は苦笑いを浮かべて答えていた。

 そう、段落とは『文頭に一マス空白を入れる』こと。これは国語の時間の作文にて履修りしゅう済みのはずである。


「……だから私は、お兄ちゃんの作品を『ブログ』だって言ったんだけどねぇ~?」

「……どう言う意味なんだよ?」


 段落がなければブログ? 段落とブログにどんな関係が?

 彼女の言葉が上手く結びつかずに疑問を覚えていた彼は、迷子のような表情で聞き返す。


「そもそも、お兄ちゃん……段落の意味って知っている?」

「それくらいならな? ……文頭に一マス空白を入――」

「そのものの意味じゃなくて、使われている理由!」

「――ぅ。……いや、知らない……」


 彼女の言葉に得意げな表情で言葉を返そうとして、「文頭に一マス空白を入れることだろ?」と言おうとしていた彼だったが。

 言葉をさえぎり否定されたことで、渋い顔をしながら二の句を告げていた。

 いくら彼が小説の作法を一切守っていないからと言っても、作文を習っているのだから彼女も「それくらいなら知っている」と理解した上で質問しているのだ。

 だからこそ彼の言葉を待たずに否定しているのだが。

 使われている理由など知るはずもない彼はジト目で睨む彼女の次の言葉を待つ。


「……って、私も正解を知っている訳じゃないんだけどねぇ~?」

「おい! こ――」


 ところが表情を一変いっぺんして、苦笑いを浮かべながら答える彼女に、身を乗り出すような勢いで文句を突きつけようとする彼なのであった。


「まぁ、でも自己解釈はしているよぉ~」

「――っと……そうなのか?」


 しかし「待ってました」と言わんばかりの彼女の言葉のカウンターに、思わず言葉を飲み込み、体勢を整えるように冷静に相槌を打つ彼。

 そんな彼に「えへへ♪」と微笑みを送ってから彼女は言葉を繋ぐ。


「そもそも、小説ってさぁ~? 誰かに読んでもらう為に書くものだよね?」

「……まぁ、そうとは限らないけどな?」

「……そうなんだそれなら私の教えることはなにもないから部屋に戻る――」

「って、待て待て待て……」


 彼女の「誰かに読んでもらう為に書くもの」と言う言葉に「そうとは限らない」と否定した彼。

 確かに個人的にノートへと書き綴り、誰にも読ませることなく個人的に楽しむ為に書く人もいるのだろう。彼の答えも間違いではない。だがしかし、今この場で答えるべき選択肢ではないのだろう。

 彼の言葉を受けた彼女は突然表情をなくし、ロボットのように抑揚よくようのない口調でくし立てるように言葉を紡ぐと、立ち上がり部屋を出て行こうとするのだった。

 そんな彼女の背中に慌てて声をかけていた彼。その言葉に反応した彼女は、おもむろに彼の方へと振り向くと――


「……いえいえ、個人で楽しむだけの作品なら別に作法なんて気にせずに、お好きにどうぞ?」


 冷たい視線で見下ろしながら、そんな風に冷たく言い放つ。


「――俺が間違っていました! 誰かに読んでもらう為に書くものでしたー!」


 このまま終了してしまえば、きっと彼女はこの先を教えてくれない。

 彼は、こんな考えが脳裏をぎり戦慄せんりつを覚えていたことだろう。

 既に彼女は部屋の扉を開いている。彼は彼女の背中に向かい、全面降伏の証しとして、土下座して謝罪をしていた。

 そんな彼の鼓膜こまくに、扉が閉まり、自分の方へと近づいてくる足音が聞こえてくる。そして。


「……よいしょっと……ほら、お兄ちゃん続きを説明するよぉ~」

「……お、おう……」


 再び隣に座った彼女の元通りの口調を聞いて、表情をゆるめて視線を彼女に合わせる彼なのであった。


「そもそも、小説ってさぁ~? 誰かに読んでもらう為に書くものだよね?」

「そ、そうだよな? だ、誰かに読んでもらう為に書くものだと思うぞ?」


 さきほどと寸分違すんぶんたがわず言葉にしてきた彼女に全力でうなずきながら肯定こうていしていた彼。

 ところが、そんな彼を眺めてニヤニヤしながら彼女は言葉を繋ぐ。


「えぇ~? 別にそうとは限らないけどぉ~♪」

「……本当、勘弁してくれよぉ……」


 さきほどの自分の言葉だと理解している彼は『彼女の仕返し』なのだと自覚して、悲愴ひそうな表情で言い返す。

 そんな彼に満足したのだろう。彼女は「クスッ」と笑みを溢したかと思うと説明を続けるのだった。


「誰かに読んでもらう為に書くもの……これって手紙や作文や論文でも同じなんだけどぉ~、段落は書き手から読み手への『へりくだる気持ちのあらわれ』なんだと思うんだよぉ~」

「……どう言う意味だ?」


 彼女の言葉がまったく理解できない彼は怪訝そうに聞き返していた。


「だからねぇ~、読んでもらうって気持ちの表れ……頭を下げているってことなんだと思うんだぁ~? ……」

「ん? 何頭を下げているん――」

不束者ふつつかものですが、幾久いくひさしくお願い申し――」

「上げなくていいから、頭を上げろ! と言うより、いきなり三つ指ついて頭を下げんな!」

「……ちぇ~」


 彼女は説明を区切ると、おもむろに正座をし、三つ指をついて頭を下げていた。

 彼女の行動に疑問を覚えた彼は声をかけたのだが。

 突然彼女の紡いだ言葉に危険を察知して言葉を重ねていた。

 そう、彼は彼女の言葉に『結婚』を感じ取っていたのだろう。

 彼の言葉に頭を上げた彼女は不満げに「ちぇ~」と悪態あくたいをついていた。どうやら彼の危険は正解だったようだ。


「それで、なんで急に頭を下げたんだよ?」


 いまだに不満そうな彼女に苦笑いを浮かべながら言葉を投げかける彼。


「ん~? 私が頭を下げた時、目の前の私がいる場所には何があった?」

「……は? いや、何もなかったじゃねぇか……」

「そう♪ 頭を下げれば『空白』が生じるんだよぉ~」

「……は?」


 表情を緩めて普通に紡がれる彼女の問いかけに理解が追いつかなかった彼。

 そう、実際に今は映っている彼女の姿も、彼女が頭を下げていた時には見えないのである。

 そんな彼の言葉に満足そうな表情で頷いた彼女は言葉を繋ぐ。

 しかし、彼女の心意は彼には伝わっていないようだ。


「だぁかぁらぁ~。頭を下げたから、お兄ちゃんの目の前には空白ができたんだよぉ~? それを文章で表現したのが段落なの」

「……」

「別に頭じゃなくても、いいんだけどねぇ~。お兄ちゃん、乾杯した時のことって覚えている?」

「は? ついさっきのことじゃねぇか……当たり前だろ?」


 彼が彼女の説明を理解できずに、無言で彼女を見つめていると。

 彼女は唐突に乾杯した時の話を持ち出してきた。

 ほんの数分前のこと。忘れるはずはないと彼は彼女に伝える。すると。


「じゃあ、私がお兄ちゃんの缶ジュースよりも下に缶を当てたのは覚えているよね?」

「ああ、もちろん覚えているが……なんで下げたん――いや、わざと下げたのか……」

「正解~♪」


 彼女は彼をジッと見つめて言葉を紡いでいた。

 彼は覚えていると答えてから疑問に思っていたことを聞いてみようとする。

 しかし、自分の言葉に気づいたのか、彼女を見つめて「わざと下げたのか」と言い直しながら呟いていた。

 そんな彼を眺めて満面の笑みを溢して正解だと伝える彼女。

 そう、彼女が普段はしない『乾杯の際に彼の缶より下に缶を当てた理由』は、段落を説明する為なのであった。


 目上に対して目下めしたの者はグラスを下にする。

 これは元来がんらい『社交マナー』なのであるが、最近では実践じっせんする者が減ってきているマナーなのかも知れない。

 なので現在では主に水商売のマニュアルで目にする方が多いのかも知れないが、お客様と乾杯をする際には必ず下の方へ当てるのがマナーとなっている。 

 そう、その心意しんいは『目上の者に対する敬意けいい』である。

 しかしこれは対面する時のマナーであり、書物の場合は少し違うのだろう。

 書物に関しては送る側――つまり書き手が目下。送られる側――つまり読み手が目上。

 年齢や実際の上下関係とは別に適用てきようされるのだと思われる。


『目上の者に対する敬意けいい』として書き手は読み手より一段下がって書をしたためる。

 読み手は頭を上げている――冒頭から読み始めるから目の前に空白が存在する。

 これが『段落の存在理由』であると、彼女は伝えたかったのである。


「そう、相手に読んでもらう為に書くものには……相手への敬意が必要なの。だから、お兄ちゃんの作品をブログだって言ったんだよぉ~?」

「ブログはいいのか? あれだって相手に読んでもらう為に書くものだろ?」


 彼女の言葉に疑問をぶつける彼。相手に読んでもらう為に書くものには相手への敬意が必要だと言い切る彼女。

 ならばブログだって同じではないのか?

 そう感じて彼は聞いてみたのだが。


「何を言っているの? ブログは日記じゃない? ……日記って言うのはぁ~、誰かの為に書くものじゃなくて自分の為に書くものだよぉ。ネットで公開しているからって、それは誰かに読ませる為なんかじゃないよ? 公開しているから読む人がいるだけじゃん……」

「だったら、小説だって同じじゃないのか? ……ぁ……」

「……違うんだよぉ~」


 呆れた表情を浮かべて彼女が言葉を紡いでいた。

 その言葉に反論していた彼であったが、自分の言葉に驚きの声を漏らしていた。

 言葉こそ違うが、ほんの数分前に口走ってしまい、謝罪をしていた自分の間違いを繰り返していた彼。恐る恐る彼女の様子をうかがっていた。

 しかし彼女は呆れた表情のまま、自然と言葉を繋いでいる。そのことに安堵しながら彼女の次の言葉を待っている彼なのであった。


「だって、ブログは日記……日々のできごとをしるすのが目的でしょ?」

「まぁ、そうだな……」

「だけど、小説って……」

「……」


 彼女は言葉の途中でノートに視線を移し、小説の作法の下に文字を書きしていく。

 彼は彼女の、シャープペンシルを走らせて綴られていく文字を目で追っていた。


『小説とは』

 《b》個人が持っている哲学的な概念がいねん。人生観などの主張。そう言った思想しそうを、より具体的に分かりやすく読み手に表現して示す――『小編しょうへん言説げんせつ』という意味。《/b》


「つまり、誰かに対していているものなんだよぉ~」

「ほ、ほうほう……」


 書き終えた彼女は彼を見つめて説明していた。彼女の言葉に曖昧あいまいに返事をする彼。言葉が理解できていないのだろう。

 彼の表情に苦笑いを浮かべた彼女は言葉を繋げていた。


「う~ん……基本的に小説って『テーマ』と言うか、作者が伝えたいことがあるでしょ?」

「ま、まぁ、あるよな?」

「つまり、そう言うものがあるってことは……誰かに伝えるから意味があるんじゃない?」

「た、確かに……」

「今の小説って、どうしても大衆たいしゅう向けに物語色が強いから意識しないけど、作者は全員『伝えたい何か』に沿って書いているんだよ?」

「……」


 彼は視線を彼女の作品へと移していた。確かに彼女の小説も、自分なりには『伝えたい何か』を感じ取っていた。それは彼女の作品が彼にテーマを伝えることを意識していたからなのだろう。

 ラノベもしかり。

 自己解釈の範疇はんちゅうではあるが、それぞれの作品に『テーマ』を感じ取っていた彼。

 自分だって妹や友人に見せようと考えて書いていた。ちゃんと伝えたいこともある。そして、それに沿って書こうとしていたことも――。

 彼は彼女の言葉の意味を、ようやく理解するのであった。


 そもそも、伝えたいことを自分だけが読む為に、わざわざ小説――物語として書く必要もないのだろう。

 伝えたいことを理解しているのに文字に書き起こす必要はないのである。

 そう、自分であるならば書かなくても脳内で結果が出てしまうのだ。


 小説とブログの大きな違い。

 それはブログとは日記――つまり、自己完結の備忘録びぼうろくに過ぎないのである。

 要は自分が忘れないように書き残すものなのだろう。特に誰かに理解してもらうこともない。自分だけが理解できれば問題ないのである。

 極端きょくたんな話、覚えていられるのであれば……箇条かじょう書き。文章にすらならない単語だけを羅列られつしても成立するのが日記である。

 とは言え、そのようなたぐいは『メモ』と分類ぶんるいされるのだろうが。

 とどのつまり、ブログとは誰かに何かを伝える必要はないのである。


 それに対して、小説とは。

 伝えたいことを物語にえて、誰かに読ませることを意識したものである。

 それはあんに「目に見えずとも、伝えたいことが届けられた先の見知らぬ誰かの心に、小さな光がともること」を願っているからなのだろう――。


「だからねぇ~?」

「お、おう……」


 彼の表情で「彼が理解してくれた」と察したのだろう。

 嬉しそうに顔をほころばせながら彼女が言葉を紡いでいた。彼女の表情に恥ずかしさを覚えていた彼は曖昧に返事をする。


「相手に対して敬意をひょうさずに頭を下げない、目線を合わせて対等な立場だと勘違いしている……自分の為だけに書かれている自己満足な文章だったから私は『ブログ』だって言ったんだよ?」

「な、なるほど……」


 そんな彼に笑顔のまま、するどい言葉を突き刺していた彼女。

 実際に言っていることは暴論かも知れないが、真意しんいを理解している彼は冷や汗を浮かべながら納得するしかないのであった。

 なお、理解しているとは思うが。

 彼女はブログに対して、このような物言ものいいをしているのではない。ブログであるなら何も否定をしなかったのだろう。それが当たり前なのだから。

 単純に、彼が自分の書いたものを「小説」だと言い張ったから、温情などかけずに手厳しく事実を伝えたに過ぎないのである。


「それとね? 小説においては段落には、もう一つの理由があると思うんだよぉ~」

「……もう一つの理由?」


 表情は変わらないものの雰囲気ふんいきやわらげた彼女は言葉を繋ぐ。

 

「小説は物語だって言ったよね?」

「ああ、そうだな……」

「それは目の前に一つの世界を生み出しているんだと思うの」

「ほうほう……」

「ここでぇ~、お兄ちゃんに質問です♪」

「な、なんだ急に……」


 唐突に質問をされたことで驚く彼。そんな彼に笑みを溢した彼女は言葉を繋げる。


「入り口のない場所は、どうやって中に入るの?」

「……は?」


 彼女の質問に理解が追いつかない彼は疑問の声を発していた。


「現実世界を地上と考えるとぉ~、物語って作者の意識下……つまり地下なんだと思うの」

「……」

「縦書きの場合は上。横書きの場合は左なんだけど……その面から読者は入ってくるんだよね?」

「読み始めの場所ってことか?」

「そうそう♪」


 最初は無反応だった彼も、少しずつ彼女の言葉を理解し始めたのだろう。

 そう解釈した彼女は満足そうに言葉を続ける。


「それなのに、文字の壁が一面を塞いでいたら中に入れないじゃん」

「そう言うものかぁ? 普通に読めるだろうが」

「そう言うものなの! って、普通に読めるんだけどねぇ~」

「どっちだよ……」


 苦笑いを浮かべる彼女に呆れ顔を浮かべていた彼。


「でもでも、一段下げて入り口を作って『どうぞ、私の物語へお入りください』って意味を含んだ空白があった方が入りやすいじゃん」

「まぁ、な……」


 チラッと自分の作品へと視線を移していた彼。


「それとぉ~、『改行の際も同じ』って言うのは……敬意については、最初だけ頭を下げても途中から横柄おうへいな態度を取ったんじゃ意味がないよね?」

「――そ、そうだよな」


 彼の視線でさとったのか、彼女が言葉を付け足していた。

 そう、接客業を例にあげるのならば。

 入店の時だけかしこまって敬語で応対していたとしても、途中から何も理由なくタメ口になってしまえばお客様には不快でしかないのだろう。

 つまり、小説で言うならば。

 すべてにおいて敬意を持ち、読み終えるまでが小説なのである。

 彼女はただ、そのことを伝えたくて言ったのだが、彼は自分の態度が横柄になっていることへの警告けいこくだと感じていたのだろう。

 背筋をピンと伸ばし、慌てて彼女の言葉を肯定していた彼。

 そんな彼の態度を察した彼女は「クスッ」と吹き出し笑いをしてから言葉を繋げるのだった。


「そしてぇ~、物語で言えば……改行したら新しい入り口がなければ次の列に入れないじゃん。と言うか、途中だと場所が混乱するかも知れないよぉ?」

「……ああ、そう言うことか……」


 彼女の言葉に彼は深く納得していた。同時に、彼女の言葉が「自分が作品に視線を移したこと」を察して付け加えられたことも理解したのだろう。

 すべてに段落がない彼の作品。

 それは改行されているようで、その実、文章が続いているように錯覚するのかも知れない。

 確かに小説の読み方は読み手の自由である。

 しかし、話の筋道すじみちを脳内で整理する為には、区切りの部分まで一気に読む必要があるのだろう。

 つまり、基本的に句点くてんで区切られた文章では目を休めず、次の文章も読んでしまう。そして改行された時に一瞬だけ目を休めて、次の段落へと視線を移すものなのだろう。

 その時、視線だけで追っていても段落があれば自然と入り口を見つけられるが……段落がなければ混乱するかも知れない。

 実際には起こらないのかも知れないが、起こらないとも言い切れない事案じあんだろう。

 作者が読者を意識する以上、そこをおこたるのは作者の怠慢たいまんである。

 彼女は、そう伝えたかったのだと思われる。


 実際に彼が自分の作品を読み返した時、読むのに疲れたと感じていた。

 それは目を休められずに常に文章の流れに集中する必要があったからなのだろう。

 そして、文章の流れに集中している状態では内容まで頭に入ってなどこない。そう、読解どっかいできないのだろう。

 

 読解とは、すなわち読み解く力。書かれている文字を理解することにあらず。

 書かれている文字から情景などの情報を読み取り、そこから推察して心情や理由など……描かれていない部分。行間を読み取る力なのだろう。

 それが内容を把握すると言うこと。

 文字を追って書いている部分だけを理解していても、それは作者の手の平で踊らされるだけなのである。


 話を戻そう。

 つまり内容が頭に入っていないのであれば、たとえ空行されても、そこまでの内容を把握することは不可能である。

 これがまだ、自分で書いた作品だから話の筋を理解しているのかも知れないが。

 正直他人の作品など理解ができるはずはないのである。

 そう言う観点かんてんから、そもそもの話……彼の作品は「面白い面白くない」以前の問題なのであった。


「ここまでを簡単にまとめるとぉ~、小説は読む人への敬意を怠れば誰も相手にしないってこと♪」

「なるほど……」


 笑みを浮かべて紡がれた彼女の言葉を真摯しんしに受け止め、メモに書き残していた彼。 

 自分自身が自分の作品を読んで感じた感情を、反面教師として理解していたのだろう。

 仮に他人の作品ならば自分も相手にしないだろう。それは彼女や友人も、自分と同じように感じるのだと思う。

 やはり書いた作品は読んでほしい。その為にも読んでもらえるように相手への敬意を忘れずにしなくては――。

 決意を新たに彼女の説明の続きを待つ彼なのであった。

 

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