第2話 文章の基本は縦書き

「それでぇ~。……」

「……俺が間違っていました! ごめんなさい!」

「うんうん♪」


 書き終えた彼女は彼に視線を合わせると、意見を求めるように見えていた。

 文字を追っていた時点で自分の間違いに気づいていた彼は、素直に間違いを認めて謝罪をする。

 そんな彼に満足そうな笑顔でうなずく彼女。


「そっかぁ……だから読み返している時に違和感があったんだな?」

「そうだよぉ~」

「まぁ、違和感を覚えないはずないか……普段読み慣れている作法が守られていないんだしな」


 彼は苦笑いを浮かべて言葉を紡いでいたのであった。


 彼女の書いた小説の作法は、当然ながら彼女が考案こうあんしたものではない。

 これは小説としての最低限のマナーだとも言えよう。

 つまり書籍については大半の作品で適用されているのだ。

 なお『すべての』とは言わず『大半の』と書いた理由は、すべての小説を把握はあくしていないがゆえ、断言できないからだと付け加えておこう。 

 とは言え、大半の書籍で守られている基本のルールなのである。


 これは蛇足だそくではあるのだが。

 最近のネット経由の書籍化では適用されていないのかも知れないが、以前の出版社へ作品を応募する形式の場合――

 編集者は大量に送られてきた作品の中から、まず最初に最低限のルールが守られていない作品を除外じょがいしていたそうだ。だが、きっと応募形式の場合は今でも同じなのだと思われる。

 そう、さきほどの彼女のように、中身など読まずに数秒で落選にされるのだろう。


 出版社としては大量の作品の中から数作品にしぼる必要がある。

 時間の限られている状態では、内容で判断をしている余裕などないのだろう。

 そもそも小説を応募すると言うことは、『小説家』になりたいから応募しているのだと思う。

 それが小説の基本ルールを守らずに応募すると言うことは。

 財布を持たずに飲食店に入るのと同義どうぎではないだろうか。

「いや、カードあるから?」などと言っても、お店で使えないのでは無銭飲食むせんいんしょくなのである。

『郷にっては郷に従え』……つまり、最低限のルールすら守られていない作品に温情おんじょうなど必要ないのだろう。


 話は戻るが。

 彼だって何十冊もの書籍を読んできている。つまり最低限のルールが脳裏のうりに植えつけられていることだろう。

 当然、ルールを理解した上で植えつけられているのではなく、目に見える形式として植えつけられているだけのこと。

 いざ、本人が書こうとしても理解されていないことを守れるはずもなく、完全にルールを無視した書き方をしていたのである。 

 そう、書いている間は作者としての彼が脳を支配している。

 つまり、書き手の彼はルールを知らないのだから、書いている間は何も感じなかったのだろう。

 ところが、読み返していた時――それは読者としての彼が脳内を支配するのである。

 要は、読み手の彼が普段読んでいる小説とは「何かが違う」と、答えは出ずとも思っていたのだろう。

 それが彼の覚えていた違和感の原因なのである。


「……それに、何一つ守っていないんじゃ……小説とは言えないよな」


 彼は自分の作品に苦笑いを送りながらボソリと呟いていた。


「確かに、一行目の一文字目で判断できるか……段落を見ればいいんだからな」

「そう言うこと♪」


 完全に彼が理解を示してくれたことを確認できた彼女は、優しい微笑みを浮かべて言葉を繋いでいたのだった。


「それじゃあ、理解してくれているとは思うけど、一つずつ説明していくね?」

「ああ、頼む……」


 彼女の言葉に素直に従う彼。

 確かに書かれた項目で理解できているとは思うのだが、完全に理解ができているとも思えていなかったのだろう。

 実際に、字面じづらの意味は理解していても……部分的に理解できていない箇所かしょもあった。

 だからこまかく説明してもらえることに感謝していたのだろう。


「……んぅ~? ……」

「ん? どうしたんだ?」

「……よいしょっと。……むふふぅ~♪」

「って、お、おい? 離れないと書けないじゃないか……」


 一瞬、彼の腕を凝視ぎょうししていた彼女であったが、何を思ったのか唐突とうとつに立ち上がると彼の後ろを歩き出していた。

 何事かと思い、振り向きながら彼女に声をかける彼であったが、彼女は反対側に移動して普通に座るのだった。

 そして、当たり前のように彼の左腕に絡まる彼女。

 行動については普段通りなのだが、教わる立場としては非常に教わりにくい体勢なのである。

 だから彼は苦言くげんを申し出たつもりなのだが。 


「だからぁ、書けるように左腕にしているんでしょ~?」


 などと笑顔を浮かべて言い放つ彼女なのであった。

 彼は右きである。そして、彼女はいつも彼の右腕に絡まっている。

 そう、彼女は自然と右腕に絡まろうとしていたのだが、きっと彼なら「離れないと書けない」と言ってくるのだろうとさっして左腕に絡まっていたのだった。

 

「ま、まぁ、そうなんだけどさぁ……」


 確かに右手は自由なので書けないことはないのだが、普段とは逆の腕を包む彼女のスイカの熱と。

 普段とは逆の方向に映る彼女の姿に違和感を覚えて困惑こんわくぎみに答える彼なのであった。



① 文章の基本は縦書き。


「まずは……文章の基本は縦書き。これは……まぁ……書籍の場合ってことだねぇ?」

「ん? 他にもあるのか?」


 苦笑いを浮かべながら、少し含みのある言い方をする彼女に聞き返す彼。


「うーん……ところで、お兄ちゃんは何のために小説を書こうと思ったの? 応募とかを目指しているの?」

「え? いや……俺は単純に、お前の作品を読んでだな? ……すごく面白かったから自分も書いてみたいと思ったんだよ」

「へ――ふぇ~? ……ほぉ、ほぉうなんだぁ~?」

「……だから俺は、お前達に読んでもらえれば十分、かな?」

「ふぇ、ふぇ~? ……」

「……」

「……ぁ……ん? ……んん~。……えへへへぇ♪」


 彼女の問いに素直に答えた彼。

 そんな言葉を受けた彼女は突然彼の腕に顔を押し付け、視線だけを彼に合わせて照れながら相槌あいづちを打っていた。

 このまま顔をうずめられていると会話が続かないと判断した彼は。

 一旦いったんシャープペンシルをテーブルに置いて、右手を彼女の頭に「ぽふっ」と乗せた。

 頭に乗った手の平の感触に視線を上に向ける彼女。

 その瞬間、彼は乗せた右手を少しだけ斜め後ろ上空へと移動する。彼の手の平を逃がすまいと、彼女の頭も追跡ついせきを始める。

 そして彼女の顔が元の場所へと戻る位置で、無事に彼の手の平に追いついた彼女の頭。

 彼は『狙い通りに事が運んでくれたこと』に対して笑みをこぼしながら彼女の頭をでてあげていた。

 要は腕に顔を埋めている彼女の顔を離そうとしていたのである。

 そんな彼の思惑など気にもせず、撫でてもらえていることに微笑みを浮かべる彼女なのであった。


「それで、なんで俺の小説を書こうと思った理由を聞こうとしたんだ?」

「……あ~、うん。もし、お兄ちゃんが応募を目的にしているんだったらぁ~、私じゃ教えられないかなって思って……」

「そうなのか?」

「うん……だって、私の書いた作品って独学のネット小説の書き方だからねぇ~」


 彼の問いに苦笑いを浮かべて答える彼女。だが、すぐに慌てた表情に変えて言葉を繋ぐ。


「あっ、でもでも、小説の作法は書籍でも通用する正式なルールだよ?」

「そうなのか……って、ネット小説って小説投稿サイトとかで使われる書き方ってことか?」

「――ひぇ? う、うん……お兄ちゃん、小説投稿サイトを知っているの?」


 彼女の言葉に相槌を打っていた彼。

 実際、彼女の作品には自分の作品の時のような違和感を覚えていなかった彼には、彼女の言葉が真実だと感じていたのだろう。

 だが気になった部分があった彼は、すぐに言葉を繋いでいた。

 そんな彼の言葉を聞いた瞬間、彼女は驚きの声を発していた。そして、おずおずと聞き返す。


「まぁ、知っていると言っても……『ホーメルン』って、二次創作小説のサイト――」

「ホッ!」

「……お前も知っているのか?」

「……え? あ、あー、うん、まぁ……名前くらいはね?」


 彼女の問いに答える彼の言葉を聞いて、彼女は目を見開いて更に驚きの声を奏でていた。

 彼女の反応に「小豆も知っているのか?」と感じた彼は自然とたずねてみる。

 そんな彼の言葉を受けた彼女は、どことなく答えたくなさそうに呟いていたのだった。


「ん? ……まぁ、去年クラスの連中に教わっただけで別に会員登録とかしていないんだけどな? それにホーメルンしか知らないんだけど」

「そ、そうなんだぁ……へぇ~、な、なるほど、ねぇ~」


 彼女の態度に少し疑問を覚えた彼であったが、気にせずに言葉を繋ぐ。

 その言葉にいまだ不自然に振舞ふるまっている彼女。


「……まぁ、それはいいだろ? それでネット小説の書き方だと何か違うのか?」

「……あぁ、違うってことでもないんだけどね?」


 だが、彼としては彼女の説明を聞く方が建設的だと感じたのだろう。強引に話を本題へと移したのである。

 彼の言葉に、心なしか安堵あんどを浮かべた彼女。そして、気を取り直して冷静に言葉を紡いでいく。


「書籍って基本縦書きなんだけど、ネット小説って横書きでしょ?」

「まぁ、そうだよな」

「その違いでもあるんだけど……書籍とネットでは少しだけ書き方を変えた方がいいんだよ」

「そうなのか……」

「そうだよ? それで、私の作品はネット小説の書き方で書いてあるから書籍とは少し違うんだよぉ」

「……ああ、確かにお前の作品って、ラノベって言うよりはネットで読んでいる作品っぽく感じていたんだけど、そう言うことだったのか」

「……たぶん、ね♪ もちろん単なる独学だから正解じゃないんだけどねぇ~」


 彼の言葉に彼女は少し嬉しそうに言葉を繋いでいた。

 きっと「自分の小説をきちんと読んでいる」と理解できたからなのだろう。

 

「それなら、この作法は違うってことなのか?」

「ううん、作法は守る方がいいんだよぉ~」

「でも、ネット小説なんだろ? 横書きなんだよな?」


 素直な疑問を返した彼に「作法は守る方がいい」と伝える彼女。

 ネット小説は横書きなのに『文章の基本は縦書き』を守る理由が理解できなかった彼。

 そんな困惑ぎみな表情を浮かべる彼に、優しい笑みを浮かべて彼女は説明を進めるのだった。


「確かにネット小説は横書きだよ? でもね……読む人が必ず横書きのまま読んでいるとは限らないの」

「ん? どう言う意味だ?」

「書籍って大半が縦書き縦読みでしょ? だから縦読みを好む人もいるってこと」

「……いや、だって横書きだろ?」


 横書きのネット小説を縦読みとは?

 そんな彼の疑問が理解したのだろう。

 彼女は苦笑いを浮かべて言葉を続ける。


「全部は知らないけどぉ~、投稿サイトには縦書きに変換できるページがあるはずだよ?」

「そうなのかっ?」

「うん♪ もちろん全員が縦書きで読むことはないんだけどぉ~、それでも変換して縦書きで読んでいる人もいると思うよぉ? だって、普段から書籍の小説読んでいる人なら、絶対に縦書きでしか読まないって人がいても不思議じゃないじゃん」

「そ、そうなのか……」


 特に何も気にせずに、普通に横書きで読んでいた彼は唖然あぜんとした表情で相槌を打っていた。

 とは言え、知っていたからと言って自分も縦書きで読んでいたかどうかはさだかではないのだが。

 そんな唖然としている彼を眺めて「くすっ」と小さな笑みを溢した彼女は言葉を繋ぐ。


「だからねぇ~?」

「お、おう……」

「基本が縦書きなんだから縦書きを意識するとぉ~、縦書きで読む人にも読みやすいけど……別に横書きでも一緒だから読みやすいんだよぉ~」

「そうなんだ……」


 彼女の説明に曖昧に答える彼。いまいち理解していないのだろう。

 ただ、横書き主体の英語とは違い、日本語に関しては――縦だろうが横だろうが向きが変わるだけなので、作法さえ整えておけば何も変わらないのは事実なのである。

 とは言え、本来ならば筆記体ひっきたいのように左から右へ繋ぐ英文と、上から下へ繋ぐ和文。

 それぞれの特色からくる書式なのであるが、ネット社会では適用されないので、ここでは考慮こうりょしないことを付け加えておこう。


 しかし、それくらいなら自分でも理解できることだと思っていた彼。「わざわざ特筆とくひつするようなことでもない」と感じていたのだろう。

 そんな彼の表情を読み取った彼女は更に言葉を繋げる。


「まぁ、必ずって訳ではないんだけどぉ~、縦書きを意識した方が書きやすいのかもねぇ?」

「そうなのかっ?」

「うん……数字を考えなくてもいいんだから♪」

「数字?」


 彼女の「縦書きを意識した方が書きやすい」の言葉に、そんなメリットがあるのかと驚く彼。

 驚いた彼に満足したのだろうか、満面の笑みで答えを提示する彼女。

 しかし彼女の言った「数字」に理解が追いつかない彼は、怪訝けげんそうな表情で聞き返すのであった。


「そうだよぉ? 縦書きには漢数字。横書きにはアラビア数字が基本でしょ?」

「まぁ、そうだな……」


 彼女の言葉に曖昧に答える彼。

 なお、必ずしも正解ではないのだろうが、文字の流れに垂直になることで『隣の文字と混同せずに独立できる』からなのかも知れない。

 とは言え、ネット小説や書籍では一文字ごとに空間があるので混同されることはないのだろう。


「まぁ? ラノベにもアラビア数字が使われている作品があるから絶対じゃないんだけどね……」

「……確かに、な……」


 彼の考えていたことを察したのだろう。苦笑いを浮かべて言葉を足した彼女。

 事実、二人の知る作品には確かにアラビア数字で表記されている作品があるのだ。

 とは言え二人とも、使われている作品を『一作品』しか知らないので基本は漢数字だと思っているのである。


「でもね? 横書きとしてアラビア数字で書いていても……どうしても漢数字を使わなくちゃいけない熟語とかって、あるでしょ?」

「まぁ、な……熟語は最初から漢字なんだもんなぁ……」

「もちろん、それは仕方のないことなのかも知れないんだけど……アラビア数字と漢数字を混ぜるのって、読む人によっては『統一感がない』って、感じるかも知れないの」

「確かに……えっと……」


 彼女の説明を受けた彼は、おもむろにノートの横に用意しておいたメモ帳――ノートと一緒に彼が用意していたメモ帳に文字を書きつづるのだった。

 彼の性格なのだろうか……走り書き程度の文字をノートに書きたくないのだろう。

 彼女に教わったことを一度メモに書きなぐり、ノートにはメモを見て丁寧な字で清書せいしょをするつもりなのであった。


  

『俺は今、2歳年下の妹と一緒に小説の作法である6つの項目を教わっている。まだ1つ目ではあるが知らないことを覚えられるので一応感謝をしているのだが、一方では俺の左腕に一抹いちまつの不安を覚えているので俺の命もあと1――』



「死んじゃやだぁー!」

「――ッ! 早めてどうする!」


 今の状況を綴っていた彼。とは言え、あくまでも『漢数字とアラビア数字の乱用らんよう』を目的としているだけなので内容については適当てきとうであった。

 つまり現実に起こるはずはないのだが、何を思ったのか彼女は顔を青ざめてギュッと彼の腕をスイカの谷間に引き寄せて、泣きそうになりながら叫んでいた。

 なお、彼が彼女に腕を絡まれることは別に普段のことなので命の危機感ききかんなど覚えてはいない。かなり動揺どうようすることはあっても、嬉しいと感じているほどであった。

 そもそも、彼は『俺の命もあと100年くらいしか残っていないのだろう』と冗談を書こうとしていたのだ。

 

 ところが。

 彼女も泣き叫んでいたから引き寄せる勢いが増していたのだろう。

 彼の腕は谷間を抜けて平野を抜け、更に下に位置するもう一つの谷間へといざなわれそうになっていたのだ。

 さすがに、もう一つの谷間への到着は身の危険を感じたのだろう。

 慌てて彼女の手から腕を振り上げ回避した彼は、真っ赤な顔で彼女に向かって文句を言っていた。


「……ぁぅぁぅ……」


 無意識だったのだろう。彼の顔を眺めていた彼女は自分の行動に恥ずかしくなったのか、彼と同じように顔を赤らめて口ごもっていたのだった。


「……ま、まぁ? 確かに、仕方のないことだって理解しても少し変だよなぁ……」

「……で、でしょう?」


 顔を赤らめたままの彼女を眺めて、場の空気を変えようと彼が言葉を紡いでいた。

 そんな彼の言葉に安堵の表情を浮かべた彼女は相槌を打つのだった。 

 

「だからね? そうならない為にも……最初から漢数字を使用する方が楽なんだよぉ?」

「なるほどな……でも、漢数字主体でも逆にアラビア数字を使用することもあるだろ?」

「もちろん♪ だけどぉ、漢数字主体の文章にアラビア数字を使用するのって、本当に特殊な時だけだからぁ~、アラビア数字主体で漢数字を使用するよりも使い分けを考えなくてすむんだよぉ~♪」

「そう言うものなのか……」

「そう言うものなんだよ♪」


 曖昧ではあるが、漢数字を使用する利点を理解していた彼。

 彼女の伝えたいことは――

 

『二つの数字を乱用するくらいなら最初から縦書きである漢数字で統一し、ほとんど使用することのないアラビア数字で表記するものだけを意識すれば使い分けを気にすることなく楽なのである』


 こう言うことなのだろう。そして同時に、漢数字で統一することは縦書きを意識することになる。


「あとはねぇ~?」

「まだあるのか?」

「まぁ、これは……基本ルールですらないんだけどぉ~」

「……なんだ?」


 苦笑いを浮かべて追加の説明を始めた彼女。

 かすかに「困ったねぇ?」と言いたそうな彼女の表情に疑問を覚えた彼は先をうながす。


「うん……さっき話したんだけどぉ、縦書きを意識していれば横書きも同じに見えるって言ったんだけど」

「違うのか?」

「うーん……ネットの場合って横書きが基本だよね?」

「まぁ、そうだよな」

「だからなのかは知らないんだけど……普段ネットで使われている横書きの文法を、そのまま小説にするとぉ~」

「……すると?」

「実は横書きでは通用しても、縦書きでは通用しないものも存在するんだよぉ~」

「本当かっ?」

「まぁ、記号の話だけどねぇ……そもそも小説のルールでもないんだけど、違う記号を使うと横書きなら言うほど違和感を覚えないかも知れないけどぉ、縦書きにすると崩れちゃうんだよ」


 困り顔のまま説明する彼女。

 記号については彼女の方から後述こうじゅつするだろうから言及げんきゅうはしないが。

 ブログやSNSで見受けられる『顔文字』を「横書きでは普通に見られるから」とネット小説に使用する者もいるようだが……。

 そもそも小説では使用されない故にみ嫌われているのではあるが。

 本来はこう言う理由――縦書きにした場合に意味を成さないからでもあるのだろう。


「とにかく、応募するつもりじゃなくても……小説としての基本は縦書きなんだから、横書きだとしても縦書きを意識して書くことが大事なんだよ!」

「そ、そうだな……」


 そう、個人で楽しむ。もしくは近しい人に楽しんでもらう。ネットに公開して大勢の人に楽しんでもらう。

 理由は様々さまざまだとは思うのだが、結局のところ小説を書こうと思うのならば自分だけでなく誰が読んでも違和感を覚えない。

 誰もが馴染なじんでいる世間一般で流通されている小説の形式を意識することが大事なのである。

 彼は彼女の言葉を受けて脳内で言葉を復唱ふくしょうしながら心に刻み、しっかりと頷きながら返事をするのであった。


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