第74話 知佳の宣戦布告
何も言えないでいる私を前にして。
知佳は、
「いただきます」
とストローで紙パック飲料をちょっと飲んで、そして話を続ける。
「それにね。成り行きと言ったら私と聡だって成り行きだよ。
あの学校で『ここでは無い何処か』を目指すという意味で意識し合って、それで話をするようになったんだし。
逆に言うと私と聡の間柄というのもそれだけなんだよね。
それが始まりで、それで全て。単なる仲間。本当はそれだけ」
話が妙な方向へ動いた。
さっきまでは私と三崎君の仲を糾弾するような問い詰めるような感じで。
そして今度は自分と三崎君の仲が実はたいしたものじゃないような事を言う。
「でも三崎君はずっと知佳の事を思っていたんだよ。判断とかだって知佳中心だし」
私としては三崎君の名誉?の為にもそれは言っておきたい。
知佳はあっさり頷いた。
「うん、わかっている。
○ 一生意識を戻らないのを覚悟でマインド・アップロードをしたのも
○ 最後に汚い手段だと思いつつ電源攻撃を決めたのも
全部私というか、『知佳』のため。あの冷蔵庫に入っていたプリンだけで充分にわかるよ。聡には色々感謝している。でもね」
知佳はちょっとおいて、そして続ける。
「それでも聡が私をそこまで大事にしてくれたのはね。私が今まで唯一の仲間だったからなんだよ。
でもこれからは違う。環境が大分良くなったし、聡が友達だとか仲間だと思う対象もずっと増えると思う。私1人だけからより多くの人数へ。聡にとってもそうあるべきだと思う。違うかな。
だからもし聡が本当に恋をするとか好きな人が出来るとするならば。それはきっとこれからの話じゃ無いかなと思うの。対象が1人しかいない状態から、自分の好みというのを知って選んだり選ばれたりする状態になって。
メイはそう思わない?」
ちょっと待って、知佳。
「何が言いたいの、知佳は」
知佳はにこっと微笑を浮かべる。
見方によっては戦闘的な微笑。
「今回聡抜きでメイと話す目的は2つあったんだ。
一つは、本当にありがとうと感謝をすること。本当に世話になったのに、他の人の前では言えないことが多いから。せめて2人だけの時にでもありがとうと言いたかったから。
そしてもう一つはね、宣戦布告。お互い堂々と戦いましょうという挨拶だよ」
ちょっと待った。
話の成り行きはどうなっているの。
何かちょっと、私にはついていけないけれど。
何なの。ちょっと希望を持っていいの?
知佳は更に続ける。
「今回は私の一方的な宣戦布告のターン。だから一方的に続けるね。
私はメイも聡も知っている。どっちもいい奴なんだよ。
学校でのメイを私は知らない。でも学校での役柄から解放されて塾で話を色々したメイなら知っている。何て言うかな、考え方が格好いいの。他人のことを色々思いやるけれど、基本は自分の中にある『正しさ』に忠実。格好良さと潔さというかな。
困った事にそういうメイを知ったら、聡はきっと気に入ると覆う。というか、すでに色々籠絡されている感じもするけれどね。聡は頭はいいけれど単純だから。まあ女の子と比べるとだいたいの男の子がそうなんだろうと思うけれど。
それでもね、聡もなかなかいい奴なんだ。それは私が自信を持って言えるし実際知っている。そしてメイも気づいているような気がする。
だからね、宣戦布告。聡については正々堂々と戦いましょうというね。正々堂々というけれど、計略を色々使うのは当然だよ。そういう勝負だし。ただ汚い手は極力使いたくないかな。お互いの為にね。
以上、メイは強敵だけれど負けないぞという私の決意表明も兼ねて。それじゃ月曜、朝から宜しくね」
「ちょっと待って」
「宣戦布告だからね、やった後は素早く立ち去るのだ」
知佳はそう言って、松葉杖をさっと手に取る。
思った以上に素早い動作で歩き始めて店の外へ出て行った。
私は店に取り残される。
あっけにとられ心の整理がつかないままの私が。
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