第72話 密談のお誘い

 電車に空席があって一安心。

 知佳を座らせて、私と三崎君はその前に立つ。

 馬久駅まではここから3駅、10分くらいだ。

「それにしても聡と私が同じ日の同じ時間に目覚めるなんて、不思議だよね」

 知佳がそんな事を言う。

「さあ、そういう月回りとかだったんじゃないか」

 三崎君はなんて事無い感じでそう言うけれど、演技が上手くいない。

 動揺したのが私にもわかる。

 三崎君には当日夜、SNSメッセージである程度の事は伝えた。

 三崎君がマインド・アップロードに成功した事。

 サイバー・ウォーを戦って何とか勝った事。

 知佳を起こす手段も手に入れて、6日お昼に実施した事。

 詳細については知っているかどうかは知らない。

 ネット上の2人と連絡を取っているかも聞いていない。

 取っているとは思うけれど。

「まあ説明出来ないことは世の中にも色々あるからね。取り敢えず留年しなかった事をありがたいと思えばいいのかな」

 知佳が三崎君に助け船を出してくれた。

 だから私も乗ってやる。

「まあそれが現実的だよね」

 そんな事を適当に話して、電車は馬久駅に到着。

 エレベータを使って改札階まで行って、自由通路を東口へ行って、エレベーターで下へ降りる。

 会社等が使っているバス乗降口前のベンチまで。

「ありがとう。じゃあ私はここでバスを待っているから」

「ここのバスは大丈夫か」

「病院のバスだからね。心配いらないよ」

「わかった」

 という事で。

「じゃあ、また月曜日ね」

 月曜朝は3人でまた学校へ行く予定。

 方法は今の逆順だ。

 そして私は線路に沿って南方向。

 三崎君は北方向へと別れる。

 知佳はその場でバスを待つ。

 その筈だった。

 でも歩き始めて直ぐ、スマホが鳴動する。

 見るとメッセージが入っていた。

 知佳からだ。

『ごめん、話があるのでちょっと戻って来てくれる?』

 何だろう。

 今別れたばかりなのに。

 とりあえず急ぎ足で駅に戻ろうと振り返ると。

 知佳がこっちに向かって松葉杖で歩いてきていた。

 あわてて駆け寄る。

「いいのに。こっちが行くから」

「でも私が呼び出したのに悪いからね」

 とりあえず知佳を止めて。

 取り敢えず今の状況下で心配すべき事を聞いてみる。

「病院のバスは」

「1本遅らせても大丈夫。それでね、話がしたいの」

 だからこそSNSで呼び止めたのだろうけれど。

 そうは言っても、この状態の知佳と立ち話というのは何だろう。

 駅の広場なら適当にベンチがあったんだけれどな。

 そう思いながらあたりを見回す。

 直ぐ横のコンビニに喫食スペースがあった。

 見たところ誰もいない。

 ここでいいか。

「そこのコンビニに行くよ」

「わかった」

 という事で、喫食スペースの椅子に知佳を座らせる。

「ちょっと待ってて」

「お金は払うよ」

「退院祝い」

 そう言って店内を物色。

 安い紙パックのドリンクを2本買ってくる。

 これならストローがあって飲みやすいだろう。

 知佳は杖で腕に負担かけているから、今まだ手が震えているし。

「ごめん、いくら」

「大丈夫、さっき言った通り退院祝いだから」

 そう言って片方を渡す。

「ところで何の話なの。三崎君に聞かれたくない話?」

 そう、聞いてみた。

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