第70話 気分は堅茹で卵

 何となく私は知佳がプリンを食べるのを見ている。

「このプリンは大きくて美味しいんだ。取り敢えず近くのスーパーで売っている中ではね。でも値段はかなり安いの。だから良く塾の帰りとか買って、こっそり部屋に持っていって食べていたんだ。

 でもお母さんが用意するとは思えない。だから入れるとしたらきっと聡。前にこの話もして知っていると思うから。

 つまり聡、来てくれていたんだ。

 最低でもこのプリンの消費期限が切れないように」

 全くもってその通りだ。

 でもそれを肯定するのも何かちょっと腹が立つ。

「それでうちのお母さんは。前は毎日病院に来て、そこに座っていたんだけれど」

「今はお昼を食べに下の食堂。もうすぐ帰ってくると思うよ」

 そう言って、ふと思い出す。

 そろそろ三崎君も目を覚ますだろうという事を。

 ならば三崎君の様子を見に行ってみるか。

 私はカバンを持って立ち上がる。

「あれ、どこ行くの?」

「もう1人入院しているクラスメイトがいてね」

 三崎君、とはあえて言わない。

 言ってやらない。

 今は私、知佳に対して微妙に意地悪な気分だから。

 そう思って歩きかけた次の瞬間。

 残念、私の配慮もしくは意地悪、失敗したようだ。

 微妙な柄のパジャマ姿でご本人が入口に立っている。

 目が覚めて直ぐにこっちに来たみたいだ。

 まったく知佳の事しか頭に無いのか三崎君このひとは。

 全くもってらしい行動なのだけれども。

「知佳、目が覚めたのか」

「聡、どうしたのそんな格好で」

 知佳は色々わかっていない様子だ。

 自分がどれだけ三崎君を心配させたかを。

 さて、私はおいとまするとするか。

 そのまま歩いて廊下方向へ。

「あれ、メイ……」

 知佳にさよならと後ろに向かって手を振る。

 これ以上の長居は私には無用だ。

 あとはせいぜい2人で感動の再会を祝うがいい。

 心から呪ってやる。

 あ、少し字を間違えたかな。

 そして廊下に出たところ、おばさん達が戻ってきていた。

 ちょうどいい。

 2人だけの感動の再会を潰してやれ。

「2人とも目を覚ましましたよ。たった今」

「えっ……」

 おばさん達の反応が止まった。

 だから動く為の後押しをしてやる。

「2人とも知佳の病室にいますよ」

 そう事実を告げるだけだけど。

 2人は病室の方へ走り出した。

 よし、これでいい。

 任務完了ミッションクリアだ。

 さらばだ諸君!

 私はちょっとだけハードボイルドな気分ノリでこの場を後にした。

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