第69話 やっと出番がやってきた

 そのままスマホでニュースを読んでみる。

 無論例のサイバー・テロの関係だ。

 一通り読んでみる。

 うん、ニュースというのはあてにならないものだな。

 よくわかった。

 何処まで危険だったか、大変だったか。

 少なくとも記者の皆さんはわかっていない。

 あの三崎君や知佳だけじゃない。

 あの瞬間、確かに何人もの人が戦っていたはずだ。

 攻撃側だけで無い。

 ルートサーバをはじめ色々なサーバや端末の管理者や関係者達が戦っていた筈だ。

 文字通り世界を賭けた戦争を。

 ただ、終わってみれば。

 ただの小さくて簡単で内容が薄い記事。

 中には事実関係が間違っている物さえある。

 政治家の言葉をいいように切り取って騒いでいる記事の方がよっぽど大きい。

 まあマスコミのニュースなんてそんなものだろう。

 過信する方が悪いのだ。

 国際政治情勢の方もちらっと見てみる。

 某国代表が米国及び日本との会談を受け入れた、そんな小さな記事があった。

 多分これが色々あったこの事件の顛末のひとつなのだろう。

 やっぱり詳しい記事は何も無いけれど。

 そんな感じで微妙に怒りながらニュースをあれこれ見ていると。

「ん、うーん」

 声がした。

 ネットから目を離し、ベッドの方を見る。

 何かちょっと身体を震わせ、そして知佳が目を開けた。

 ぱちぱちと目を瞬かせ、そして天井と周りを見て。

「あ、そうか。事故で入院していたんだ」

 そう言ってこっちを見る。

「おはよ、メイ。お見舞いありがとう」

 そしてちょっと考えて。

「でも病院教えていないのに、どうしてわかったの」

 そうか。

 この知佳にはその間の記憶は無いのだ。

 ちょっと意地悪してやりたくなる。

「今日、何月の何日だと思う?」

「うーんと、そろそろ3月終わりかな」

 やっぱり。

「今日は5月6日、ゴールデンウィーク最終日。一ヶ月以上眠った後のお目覚め、どんな気分かな?」

 あ、固まった。

 私の言った事を即座に理解出来なかった模様。

 そして。

 恐らくスマホをいつも置いていたであろう棚を手で探り。

 当然見つからずにそこら中を探して。

 おばさんが持ってきたらしい新聞を手にする。

 うん、正しく今日の新聞だねそれは。

 知佳は日付欄を、ご丁寧にも3ページ分と表紙で確認した。

「え、どうなっているの。どうなっていたの。あと……それじゃ学校は?」

 お、焦っている。

「大丈夫、悪い事にはなっていないから」

 そう言って、取り敢えず冷蔵庫にアレがあるのを思い出す。

 この時の為用だ。

 だから冷蔵庫から出してやる。

 知佳の為では無い。

 これを用意した三崎君の為だ。

「とりあえずこれでも食べて落ち着いて」

 三崎君が毎週入れ替えていた特大安物プリンだ。

 スプーン付きなのでそのまま食べられる。

 知佳は何か苦笑めいた笑みを浮かべた。

「聡だね、こんなものを用意するのは。でもちょうどいいかな。お腹がすいた気もするし」

 1月以上何も食べていないのだ。

 腹ぐらい減るだろう。

「いただきます」

 知佳は蓋を取って、そして私の分が無いことに気づく。

「あれ、メイも半分食べる?」

 私も思わず苦笑。

 何か知佳だなあと思う。

「私はいい。お昼食べてきたばかりだし」

 取り敢えずそう言って断った。

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