第68話 私の報酬

『処置完了。VRコネクタのスイッチをオフにして外して下さい』

 外すと表示が変わった。

『完了。このまましばらくすると目が覚めます。次、三崎君に接続して下さい』

 さあ急ぐぞ。

 VRアダプタをカバンに隠す。

 人の気配が無いのを確認して廊下へ出て。

 そのまま隣の隣の部屋へ。

 三崎君のベッドは手前の左。

 三崎君ベッド周囲に人の気配は無い。

 他の皆さんはカーテンが閉まっている。

 どうやら食事終了でお昼寝時間の模様。

 よし、チャンスだ。

 ささっとベッド横に潜り込み、カーテンを閉める。

 片手でちょっと重い三崎君の頭を少し上げて。

 ささっとヘッドセットをつける。

 位置がきちんとあっているかだけはしっかり確認してスイッチオン。

『脳波を確認しました。治療開始します』

 よし、あと少しだ。

 立ったまま表示のパーセントが減っていくのを待つ。

 カーテンを閉めたから外は見えない。

 でも知佳の時の経験があるからだろうか。

 さっきよりちょっとだけ気持ちに余裕がある。

 そして。

『処置完了。VRコネクタのスイッチをオフにして外して下さい』

 そんな表示が出た。

 さっとコネクタのスイッチを切って。

 頭を持ち上げてコネクタを外してカバンに入れて。

 そして私は三崎君の顔を見る。

 いつもの調子の悪そうな色々な顔と違って、この状態だと結構整っている。

 そして平和そうに眠っている。

 まったく、色々させやがって。

 心配させたり動かせられたり。

 でも、これで終わりだな。

 そう、これで終わり。

 だから。

 私は彼の顔を上から近づいて見て。

 そして軽く頬にキスをした。

 感触とか味とかは良くわからない。

 一応初めてのキスだけれども。

 唇は知佳にとっておいてやる。

 だからこれくらいいいだろう。

 私の今回の報酬で、そして思い出。

 彼の顔を見ると、ちょっとだけ涙が出る。

 でもこれでいいんだよね、きっと。

 そう自分に言い聞かせて。

 それじゃさよなら、私の初恋。

 私は音がしないようにゆっくり動く。

 カーテンも元のように開けておいた。

 そして普通に歩いて知佳の病室へ戻る。

 このまま帰ってもいいけれど、面会名簿に名前がある以上いた方がいいだろう。

 三崎君の方の部屋にいてもいいけれど、あんな事した手前少し恥ずかしい。

 誰も見てはいないのだけれど、それでも顔が赤くなるのを感じる。

 我ながら大胆な事をしたなと思う。

 でも後悔はしていない。

 唇へのキスは次の恋へお預け。

 そんな訳で。

 私はいつもは知佳のおばさんが座っている椅子に座って。

 暇つぶしにスマホの電源を入れる。

 まだ終了させていなかった例のアプリに表示が出ていた。

『これで無事完了です、ありがとう』

 こっちはまだまだ完了じゃ無いけれどな、と思う。

 2人が起きてきたらそれなりに色々あるだろうし。

 明日は恐らく検査だの色々あるだろう。

 制服は最悪私のスペアを貸してもいい。

 一週間もあれば出来るだろうし。

 あと知佳には進学校の早い授業1ヶ月分を叩き込まなければならない。

 まあそれは三崎君がメインのお仕事だ。

 私も手伝ってやらないでも無いけれど。

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