第66話 恥ずかしさのお裾分け

「あとは寝ている身体の方を起こす方法だけれどね。今日のお昼12時2分ちょうどにナースステーションに着くように、病院に来てもらっていい」

 知佳の台詞。

 そういう事は。

「プログラムが出来たの?」

 知佳は頷いた。

「プログラムはもうすぐ完成予定だよ。そして作業の手順の方も。

 聡のお母さんと私のお母さん、ちょうどお昼にエレベータに乗って下の食堂に御飯を食べに行くの。だからその隙に私の病室に来て、私にVRアダプタをセットして。起動して5分もあれば終わるから。そうしたら急いで三崎君も」

「知佳の方が先でいいの」

「そうしないと聡が納得しないと思う。まずは私の方にセットして。スマホ画面見てその通りやれば大丈夫。時間は充分に余裕があるよ。作業は1人5分もかからないし、お母さん達は毎回食事に30分はかけるしね。テレビを見ながらだから。

 もし障害が発生した場合はSNSで連絡して」

「わかった」

 思ったよりそっちは簡単にいきそうだ。

「あとは……特に連絡事項は無いかな。最後の作業、面倒だけれど宜しくお願いしますというところで」

 時計を見る。

 午前5時05分。

 緊急で起こされてからたった20分ちょっと。

 たったそれだけの間なのに色々感じたな、

 そして、こっちの世界の三崎君に言った事を思い出してちょっと赤面。

 我ながら随分な演説をしたものだ。

 かなり恥ずかしい。

 あ、恥ずかしいと言えばひとつ思い出した。

「そう言えば三崎君に聞いたけれど、最初は何か変装していたんだって?」

 あ、知佳が赤くなった。

 ちょうどいい、追及してやれ。

 私だけ恥ずかしい思いをしたままでやってられるか。

 ついでにちょっと仕返しだ。

 色々あてつけられたこっちの気分、少しは思い知れ!

「最初は三崎君に少しでも別の事に気を向けて欲しくてね。昔、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが好きだったと聞いていたから、ちょっとその雰囲気で」

「ちょっと見せて貰っていい」

「うー、ちょっと恥ずいから……」

 恥ずかしがる知佳。

 でもここはいじめてやる。

 その程度の恨みは悪いがあるのだ。

 だから。

「どうしても?」

 そう渋る知佳に。

「見たいなあ」

 攻めてやる。

「なら、ちょっとだけ」

 そう言って知佳は立ち上がり。

 さっと腕を回すような仕草をする。

 そこに現れたのはまさに怪人。

 黒のシルクハットに黒スーツ上下。

 赤い蝶ネクタイ

 内側が赤い黒マント。

 胸ポケットに挿した赤いバラ。

 そしてとどめは目と口が思い切り笑顔の金色の仮面だ。

 これは、なかなか……

 三崎君に聞いた話では、面白いのは確か格好だけではなかったよな。

 当選そこも突っ込ませて貰おう。

「ちなみに名前は何と名乗っていたの」

「草かんむりに化けるの花、夜空に浮かぶ月、一朗二朗の朗で、右側が月の朗。

 花、月、朗でかげろうって読ませるの」

 名前までが見事で。

 駄目だ。

 これは耐えられない。

 私は思い切り笑ってしまった。

 そしてその笑いが止められない。

 まったく知佳にこんなセンスがあったとは。

 思い切り公にしてやりたいくらいだ。

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