第65話 誇ってもいい

 ちょっとの時間の後。

 三崎君は小さく、確かに頷いた。

 よし。

 私は更に続ける。

「人の出来る事には限りがある。三崎君や知佳のような人よりもっと色々な事が出来る存在でも、きっと。

 そして今回。この防衛に失敗すると知佳の身体が起きる事は出来ない。下手すれば生命維持すら危険な状態になるかもしれない。

 それは三崎君もわかっているでしょ。だから三崎君は知佳を選んだ。他の可能性の中から知佳を選んだ。

 私はそれでこそ三崎君だと思う。違うかな。

 だから自信を持っていいんだよ。誇ったっていい。三崎君は三崎君として判断して、そして知佳を護り切ることに成功したんだから。

 より多くの人をそれで救えたとか、他にも色々あるけれどそれはそれで別として。

 だから私は三崎君を責めない。例えもっと酷い事をしたとしても責めない。むしろ誇ったっていい。それ位の気持ち。そしてそれは知佳もきっと同じだと思う。

 だからこそ、選んだ方を護りきった事、その結果を誇って。

 まあ口に出さなくてもいいけれどね。この事を知っているのは私と知佳だけだし。そして私も知佳も、三崎君はよくやったと思っているから」

 我ながら偉そうな事を言っているなと思う。

 でもこれは私の本心。

 間違いなく本心だ。

 そして、三崎君は小さく頷いた。

「ありがとう。何かちょっと楽になった」

「楽になったじゃまだまだよ。堂々と誇れるくらいになりなさい」

「努力する」

 少しは通じたかな。

 それにしても私に知佳を使って説明させるとは。

 しかもそれで納得するとは。

 一発ぶん殴るか押し倒してやりたい気分だ。

 出来ないししないけれど。

 そんな事を考えて。

 考えの中だけでも随分自分が大胆になったなと気づく。

 これはVR空間にいるからだろうか。

 うん、きっとそうだ。

 そういう事にしておこう。

「さて、ここで2人でいると知佳に不信感持たれそう。だから知佳を呼ぶね」

「ちょい待て!まだ気分がそこまで回復していない」

 三崎君、慌てる。

「問答無用!」

 私はSNSを複数通話モードに変更して、こっちの世界の知佳をコール。

 コール1回もしないうちに。

「こっちもほぼ終わりだよ、お疲れ様」

 知佳が登場した。

 そして三崎君は消えている。

「ごめん、つい直前前三崎君がいたんだけれど」

「大丈夫、聡は思考を整理するのに時間がかかるタイプだからね。そのうち何食わぬ顔で出てくると思うよ」

 なるほど、良くわかっていらっしゃる。

「それよりメイ、いいの。三崎君に何か伝えたいことがあるんじゃない」

 女同士の勘は男より良く当たる。

 少なくとも鈍感な三崎君よりは。

「ううん、大丈夫」

 自分の中の思いをきっぱり払うように、はっきり言いきる。

 でも。

「それに私が攻略すべきなのは、こっちの三崎君じゃないしね」

 そう付け加えておこう。

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