第64話 私なら迷わない

 それでも。

 話が出来るのが私くらいなんて言われると。

 ちょっとだけ気分が嬉しくなるのは私の業だ。

 目の前にいる暗い表情の三崎君には申し訳無いけれど。

「それで話、懺悔っていったい何なの?」

 そんな内心に気づかれないよう、同じ調子で尋ねる。

「今回、敵の攻撃を止めるために。

 僕は本来使ってはいけない最後の手段を使った。

 テロに対する、テロ行為さ」

「どんな手段」

 出来るだけ何でも無い調子で聞いてみる。

「電力隔絶。敵主力チームがいるサーバ付近の変電所10箇所以上を遠隔操作して破壊した。最低でも半日は復旧に時間がかかる。実際はもっとかかるだろう。

 ネットの回線そのものやサーバ本体は非常用電源で無事だとしても、途中の回線設備が電力断で繋がらない。つまり彼らは攻撃出来なくなった。交通機関も軒並み停止したから他に移動する事も出来ない」

 良かった。

 兵器でも使ったかと思った。

 でも。

「それはやむを得なかった事じゃないの」

「ああ。他に方法が無いと判断した」

「なら、何故」

 三崎君はため息をつく。

「前にさ。花月朗、正体は知佳の変装なんだけれどさ、2人で停電テロ防止をした事があるんだ。その時に聞いたり調べたりしてさ。停電テロの結果どういう事が起きるのか、だいたい知っている。

 道路信号をはじめエレベーター、エスカレーター、更に電車等の交通機関でまず事故が起き、怪我人が出る。保存していないデータが破損して情報的にも巨大な損失が出る。病院の治療などで運悪く非常用電源が使えなかった、なんて事もあるだろう。

 そして二次的に暴動等が発生する恐れもある。日本程平和でも豊かでもない国だから。これで更に怪我人が、下手すれば死者も出るだろう。

 しかもこの国、この地域は犯罪を企図した当事国とは関係ない。ただ当事国が秘密裏に構築した機関があった。それだけなんだ。

 その事実を結果を僕は知っていたしわかっていた。

 それでも僕は実行した。迂回配電すら出来ないよう、完全に。

 自分でサイバーテロを防いだ時の手口を悪用して、さ。

 酷い手段だった、自分でもそう思うよ」

 なるほど。

 言いたい事はわかる。

 仕方なかった事だ。そう私が言うのは簡単だ。

 実際その通りだったのだから。

 そうしないと更に多くの被害者が出たのだろうから。

 でも三崎君はそんな事、充分に知っている。

 知っているからこそ、実行したのだ。

 自分で最後の手段と言った方法を。

 ならば。

 伝わるかどうかわからない。

 でも伝えるべき言葉はある。

 ちょっと理論構成を考える。

 理論と言うより感情論だけれど。

 頭の中で確認する。多分大丈夫。

 そして私は口を開く。

「三崎君。もし仮に、知佳と誰か知らない人が大怪我をしていたとする。助けられるのは片方だけ。そういう場合に直面したらどうする?」

 三崎君、えっという顔でこっちを見る。

「私が三崎君だったら知佳を助けるよ。ちょっとは迷うかもしれないけれど。違う?」

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