第63話 三崎君からの連絡

 それでも無理矢理深呼吸を何回もして。

 かえって過呼吸でふらふらになる。

 我ながらなっていない。

 そして、何も出来ない。

 そう思った時だった。

 スマホが振動しながら鳴った。

 私はスマホを手に取る。

 テキストメッセージが入っていた。

 相手は『MISAKISATOSHI_C01』

 慌ててメッセージ画面を開く。

『話をしたい事がある。VRアダプタを接続出来るか?』

 滅多に使わないけれど一応持っている。

 だから急いで返事を打ち込む。

『大丈夫』

 だ、の一文字だけで予測変換してくれた。

 便利だ。

『なら頼む。後はこっちで指示するから』

 何だろう、と思う。

 サイバー・テロの方は大丈夫だろうか。

 でも。

『わかった』

 そう返事をして、VRアダプタをケースから取り出す。

 いつでも使えるように手の届くところに出しておいたのだ。

 三崎君が目を覚ますのに使えるように。

 スマホに接続してアダプタを被るように装着して。

 右手で耳付近にあるスイッチをONにする。

 少しの時間の後、感覚が切り替わった。

 全周緑色の草原、空は青空、太陽も出ている。

 そこに三崎君がいた。

 うちの高校でよく見る学生ズボンにトレーナー姿だ。

 いつもと同じ、何か浮かないというか渋い表情をしている。

「もう攻撃の方は大丈夫なの」

 彼は頷く。

「ああ。ぎりぎりで間に合った。もう敵の次の攻撃は間に合わない。それぞれの管理者も世界的に連絡を取り合ってBINDの穴を塞ぎつつある。書き直されていた権限も元に戻しているところだ。

 あとはDdos攻撃の残りだけ。これはもう知佳に任せておけばいい。そのうち止むだろう」

 三崎君はそう言って、右手首をさっと返すような動作をする。

 私と三崎君の前に、パソコンに表示されていたのと同じ画面が現れた。

 情報網の方はまだ赤い。

 でも落ちていたルートサーバ群が復帰しつつある。

「それにしては浮かない表情だね。何故」

 悪い予想を思い切って口にしてみる。

「知佳を起こす方法が見つからなかった、とか」

「そっちは大丈夫。今新しいプログラムを作りつつある。お昼までには完成する予定だ。そうしたら申し訳無いけれど頼む。最悪の場合は僕だけでいい。あとは起きた僕が夜中にこっそり動くから」

「なら何故、そんな表情をしているの。そして何故、ここに知佳さんを呼ばないの。そういう状態なら知佳さんだってここに来るくらいの余裕リソースはあるんじゃない?」

 三崎君はため息をつく。

「そうなんだけどね。ちょっと知佳に色々顔見せ出来ない状況なんだ。そして他に話をできるのは糀谷さんくらいでさ。だからわざわざここにVRで来て貰ったんだ。

 愚痴というか、誰かの顔を見て懺悔をしたい気分でさ」

 何だそれは。

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