第61話 負け戦の予感

 目覚ましの音がする。

 枕元にあるはずのスマホを手で探す。

 バーをスライドさせようと思って気づく。

 この音はスマホの目覚まし音じゃ無いと

 状況を思い出す。

 飛び起きて、パソコン画面ディスプレイを明るくする。

 真っ赤だ。

 ルートサーバ群はaからmまでの13群ある。

 そのうち、b、c、e、f、g、iは真っ赤。

 mも一気に負荷が上がってきた。

 地図の方も真っ赤な部分が多い。

 これはかなり危険。

 画面の下にメッセージが出ている。

『日本時間4時43分、敵の本気の攻撃が始まった』

 今の時間は4時44分。

 つまり、つい1分前のことだ。

 SNSを複数通話モードで起動。

 コール1回で知佳が出た。

 三崎君は出ない。

「ごめん、メイ。聡は別の場所に出向いている。だから今出るのはちょっと無理」

 えっ。

 三崎君側の通話要請を慌ててキャンセルして、私は知佳に尋ねる。

「状況はそんなに悪いの」

「今はまだ何とか。でも敵はBINDのゼロディ2箇所を突いてきたの。このままだと時間の問題かもしれない」

 意味がわからない。

「BINDというのはルートサーバに使っているソフトウェアよ。過半数のルートサーバで使っているソフトウェア。その中に今まで知られていなかったバグが2箇所あったの。敵はそこを正確に突いてきている」

 それって。

「かなり危ないじゃない」

「そしてDos攻撃の主力をBINDじゃないルートサーバに移しつつある。このままだと完全に敵優位な状態」

 見ている間にルートサーバmが応答困難な状況に落とされる。

「聡は最後の手段と言ってユニット半分だけキープして連絡が途絶えた。多分現地に物理的に近い処まで行って何かしている。私も連絡が取れないの。私は聡が残したユニットも管理しつつ防戦している状態よ。

 Dos攻撃の山場は越えた。もう今以上に攻撃が増える事は無い。でもそれ以上に残っているルートサーバ群が少ないの。計算だとあと30分でhかkが落ちて、すぐ残りとlが落とされそう。ゼロディ攻撃とDos攻撃でルートサーバ全てが機能不全になる。よほど効果的な手段を三崎君が取らない限りね」

 負け、か。

「それでメイ、まだネットが通じるうちに。最後のお願い」

 嫌だ、聞きたくない。

 それはこっちの世界の三崎君と知佳。

 そして現実側の知佳とのお別れを意味するから。

「ごめん、でも」

「わかっている。最後のお願いだとわかっているの。だから聞きたくない」

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