第60話 一時休憩

 円グラフはまだ大丈夫。

 でも赤い部分が大分増えてきた。

「色々な手口を使っているな。まるで今までの歴史的攻撃パターンのおさらいのようだ。UDPだけでなくTCPもか。ポート23とか2323とか」

「でもまだ既知の攻撃手段だね。懐かしのMiraiボットの進化系ってとこかな。23231とか6789とか。なにやら歴史的経緯を踏んだ感じだね」

「まあ組み込み処理系デバイスが相手だ。Miraiボットと同じようなものさ。洗練されているしつついている穴は微妙に違うけれど」

 言っている単語はよくわからない。

 でも敵が色々な攻撃を仕掛けてきていること。

 まだまだ対処が出来ている事。

 そして敵の本命攻撃はまだ出現していないだろうこと。

 その辺が2人の口調から何となくわかる。

 ただ地図の方のネットワークも青色から黄色になる線が増えてきた。

 通信量が増大しているという事だ。

 無論普通の通信もあるだろう。

 でもそうでない可能性も高い。

「何故敵の攻撃が遅れているの。本来なら同時に一気に攻撃した方が有利な気がするけれど」

「先んじて敵のサーバのいくつかを使用不能にしたからさ」

 三崎君が答えてくれた。

「使用不能にしたサーバの中に攻撃のメインになるサーバがあったんだろ。ただ必ず他の使用可能なサーバで攻撃を仕掛けてくると思う。その前に他の攻撃を出来るだけ無力化しておく。もしくは敵の攻撃をできるだけ早く察知して対策を練る。人間の戦い以上に時間が勝敗の鍵を握るんだ」

「今のままだと防御成功だけれどね。まだ山は来ていないと思うな」

 知佳の声。

「メイ、もし何なら今のうちに寝ておいた方がいいよ。多分勝負のピークは明日の午前9時。つまり本来の攻撃開始時間。事態が急変するとしたらその頃だと思う。もし何かあればパソコンでアラーム音鳴らすなりするから」

 確かに。

 明日は休みの最終日だし。

 昼間に見舞いがてらやるべき事も出来るだろう。

 隙が無ければ面会終了時間後にこっそりやる事もあるだろうし。

「わかった。取り敢えず一度寝る。でも何かありそうなら起こして」

「勿論。その時こそは宜しくね」

 この宜しくはあまり宜しくない場合の宜しくだ。

 なのであえて返事をしないで通話を切る。

 パソコンのディスプレイを一番暗い状態まで明るさを落として。

 スピーカーだけは一応音量20位で音が出るように調整。

 出来れば次の通知が無事終わりというメッセージでありますように。

 大した事無かったよと言うような言葉でありますように。

 そして私は新しいプログラムをスマホにインストールして。

 どうやって2人にVRアダプタを付けようか悩んで。

 それでも何とか2人とも無事処理を終える。

 7日は無理でも今週中に2人とも目覚めて登校してきて。

 私が密かに思っていた気持ちは他に知る人がいないまま。

 日常の中に埋もれていくのだろう。

 うん、それが一番いい結末なんだ、きっと。

 そう自分に言い聞かせて。

 そして私は目を閉じる。

 おやすみ、私。

 せめて夢では色々叶うといいな。

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