第58話 友達

「わかった。きっとメイの言う事が正しいと思う。でもね、ひとつだけお願い」

 知佳の声。

「何?」

「もし5月6日、このネットの防衛が上手くいかなそうだと判断した場合。または防衛が成功しても聡が私の意識を戻す方法を見つけられなかった場合。

 その場合はお願い。私から三崎君を起こすためのプログラムを受け取って。そして実行して。

 それだけはお願い」

 やっぱり、そう私は思う。

 知佳も三崎君と同じだ。

 三崎君は知佳の事しか見ていない。

 知佳もやっぱり三崎君の事しか見ていない。

 ちょっと頭にくるので言ってやる。

「三崎君もそうだけれど、私の思いとか意向とかは完全無視だよね」

「ごめん」

 知佳の声。

「それでも私と聡はメイしか頼れない。メイに申し訳無いし辛い思いをさせるけれど。それでもメイにしか」

「大丈夫。その時になったらちゃんと受け取るから」

 そう。

 本当にそういう場合なら、私も知佳の言う通り動くだろう。

 その時にはもう今話している知佳や三崎君と二度と会えないかもしれないけれど。

 私の記憶以外にはあの2人の思いや行動が残らないのだろうけれど。

「でもそんな事態は起こらないようお願いね。この知佳や三崎君と話せなくなるのは嫌よ。今話している知佳や、さっき話した三崎君も私の大事な友達なんだからね」

 だからそう付け加える。

 これも間違いなく私の本音。

 僅かな期間しか話していないけれど、私の大事な友達。

 普段は言えないような状態で本音を言い合った。

 通常は委員長スタイルのいい子を崩さない私の大事な大事な友達。

 触れあうことも同じ景色を見ることも出来ないのだけれども。

「わかった。私も最善を尽くすから。まあこう言っている間も色々やっているんだけれどね。あちこちのプログラムの修正とか」

「お願いね。じゃあ、また」

「またね」

 通話は切れた。

 図書館近くのベンチで私はため息をつく。

 幸い周りに人はいない。

 なので安心してもう一度ため息。

 私は何をやっているのだろう。

 ちょっと自問自答。

 あのままプログラムを消さずに持っていた方が良かったのではないだろうか。

 そう考えて思い切り首を左右に振る。

 そんな考えを遠心力で弾き飛ばすように。

 もし三崎君がそれで目を覚まして、知佳が目を覚ませなくて、私が三崎君と今より仲良くなれたとしても。

 私はきっと自分自身を許せない。

 そんな姑息な私自身は許さない。

 たとえこっちの三崎君にそのあたりの記憶が無くても。

 だから私は正しい。

 たとえ他人からどう見えようとも。

 さて、家に帰るか。

 スマホの充電表示も1コマ減ったし。

 私は立ち上がって自転車置き場へ向かって歩き出した。

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