第57話 意志と意地
さて。
私はスマホの管理画面を呼び出す。
この前ダウンロードしたプログラムを消す。
インストールファイルを含めて全部。
ゴミ箱まで消去し、更にクリーナーかけて痕跡まで消した。
それからSNSである対象を選び、音声通話をかける。
これはプログラムを消してしまった事から来る義務だ。
それと同時に宣戦布告でもある。
多分というか間違いなく負け戦だろうけれど。
コール2回で向こうは出た。
「こんにちは。今日はどうしたの」
知佳の声だ。
電話ごし、それも多分合成音声だけれどそれでも知佳とわかる声。
「ちょっと話しておくことがあって」
「何かな」
あの知佳もこの知佳もきっと私のいい友達だ。
信頼出来るし信用も出来る。
だからこそ、はっきり伝えたい。
色々な事を。
「まずは報告というか、お詫びから。
ごめん。折角貰った『三崎君を起こすプログラム』。今、スマホから完全に消去したの。インストールファイルも含めて」
ちょっとの間。
「何故かな。きっとミスとかではないよね。理由を聞いていい」
うん、やはり知佳は怒らない。
自分の意志が通らなかったけれど、それでも。
ちゃんと私の考えを、思いを聞いてくれようとする。
いい子なんだ、本当に。
でも、だからこそごめん。
「まず消した理由の説明の前に。
三崎君、気づいていたよ。知佳の方が目覚める可能性が低い事に。それでも色々調べて、何とか知佳を起こす方法を探している。今回のテロ事案を防ぐのと同時に何とかするって」
「そっか」
ため息が聞こえたような気がした。
「昔からそうなの。常に鈍感なくせに、肝心なところは気づくんだ。聡は」
その言葉が三崎君と知佳の親密さを物語っているようで聞いている私の心中はちょっと複雑。
知佳は無意識に言っているだけなのだろうけれども。
「だから私も三崎君を信じてみる。知佳には申し訳無いんだけれど」
「それで私のプログラムを捨てた訳だね」
知佳はそう、つぶやくように言った。
そしてまた、ため息の気配。
「ごめんね。私はメイも聡も見くびっていたかもしれない。私が用意した予定調和では認めてくれない訳だね。そんなの甘いよって」
「ええ」
私は頷く。
そう、甘い。
私にとっても。
「だから私は知佳に宣戦布告するの。
勿論私が出来る事なんてほとんど無い。それはわかっている。結局は三崎君に頼るしかない。三崎君の調査に期待するしかない。
それでも私は知佳を取り戻す事を諦めないわ。そして知佳が諦めるのも許さない。必ず2人とも取り戻す。これが私の知佳に対する宣戦布告の内容よ」
そしてその上で、三崎君を賭けて勝負をしよう。
勝ち目はほとんど無いけれど。
それが私の決断で、そして意地だ。
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