第28話 知佳の病室で

 三崎君は持っていたコンビニの袋から何かを取り出す。

「起こすと悪いから静かに」

 そう言って冷蔵庫を開け、何か作業。

 何をしているんだろう。

「何なの今の儀式は?」

 冗談めかして聞いてみる。

「知佳の好物。目が覚めたら食べたいだろうと思って」

 中に入ったプリンを入れ替えていたようだ。

 うん、この台詞と行動で充分に三崎君と知佳の関係がわかるなあ。

 妬けるなあと思いつつ。

「なるほどね。名前を自然に呼び捨てするとは、恋人枠のようなものなのかな?」

 ちょっと不用意だぞ、と突っ込んでみる。

 あ、明らかに焦っている。ちょっと意地悪だったかな。

 でもこうやってみると三崎君は意外と表情豊かだ。

 なおかつとってもわかりやすくていい。

 確かに知佳の言う通り、不器用だけどいい奴だ。

「恋人とかよりは戦友だな。家の中学は勉強する雰囲気じゃ無かったからさ。それ以外にもまあ、色々理不尽というか常識がおかしいところで」

 うん、似たような事は前回の見舞いの時にも聞いた。

 それが三崎君の公式見解。

 でも本当かな、とも思う。

 本人はそう信じようとしているのかもしれないけれど。

 だからここで再び攻撃。

「小島さんは言っていたよ。みんなそうだと思うけれど、私もここで落ちる訳にはいかないんだって。色々約束をしてしまった友人がいるから絶対一緒にここに通うんだって。

 恋人?って聞いたら笑っていたよ。今はまだそうじゃないって」

 お、お、お。見事に顔色が赤くなった。

 なかなか素直でよろしい。

 なので知佳には悪いけれど更に追撃。

 これは今後の伏線でもある。

 私が前々から考えていた計画の。

「だから小島さんの相手を見るの、楽しみにしていたんだけどな。小島さんは病気という理由で登校してこないからわからないし。三崎君は三崎君で一切そんな素振り見せないし。

 でも5月半ば過ぎたらそろそろ同じ学年のままいるのも難しいんじゃ無い」

 三崎君はちょっと顔をしかめて。

 でも頷いた。

「先生には5月いっぱいと言われている。それを越えたら出席日数的に進級は無理だって」

「期限は残り1月か。厳しいね」

 そう、でも1月だからこそ、私も何とかやれるだろう。

 その計画を口にしようとした時。

 不意に三崎君が自分のカバンを開け、ごそごそし出した。

 何だろう。

「でもアメリカで似たような症例があったそうだ。その少年は3週間で意識を取り戻して社会復帰。今度の学会誌で論文が発表されるらしい。参考になることがあれば」

 うわ、英語だ。

 そう思った次の瞬間、下に日本語訳が出ていてちょっと安心。

 なので日本語訳の方を読ませて貰う。

 そして気づく。

 予想通り三崎君は英語は出来るけれど得意じゃないし好きでも無い。

 少なくとも私よりも。

 この翻訳は彼がやったのだろう。

 読めばわかる。

 間違ってはいないけれど固かったり表現がもどかしかったり。

 あ、イディオムの訳し間違えも発見。

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