第27話 お見舞い、だけれども……

 彼が乗ったエレベーターが動き出したのを確認して、私は隠れていた建物の影から出る。

 そのまま急ぎ足で入口を通り、エレベーターへ。

 エレベーターは2基あるけれどなかなか来ない。

 何せ1基は行ったばかりだし。

 焦る気持ちを何とか押さえつけ、やっと来たエレベーターへ。

 大丈夫、彼はすぐには消えない。

 そう自分に何度も言い聞かせながら階数表示を見ている。

 エレベーターの扉が開く。

 すぐ目が彼を見つけた。

 ナースステーションの受付。

 外来者名簿に名前を記載している。

 よし、ちょうどいい。

 軽く深呼吸をする。

 私の方の準備は万端。

 接触開始だ!

「おはよう」

 出来るだけ自然に声をかけてみる。

 驚いたように振り返る三崎君。

 しまった、書いた後に声をかけるべきだったかな。

 でもやってしまった事はしょうがない。

 だから続けて声をかける。

「朝早くからお見舞いなんだ。昨日も来ていたの?」

 私は昨日は知りませんよ、という言い訳。

 わざとらしすぎるかなとちょっと反省。

「いや、昨日は所用で別の処に出かけていた。それに土日連続で来るとおばさんが申し訳なさそうな感じになる。

 そちらこそ、朝からお見舞い、済まないな」

 済まないという言葉が出るという事は三崎君、知佳さんを完全に身内扱いしているんだな。

 ちょっと寂しい気持ちがするのは私の気のせいだろうか。

 なので気分的にそこをちょっと突っ込んでみる。

「済まない、なんてまるで身内みたいな言い方だね」

「そんな気は無いけれどな。ただ僕は長い付き合いだが、糀谷さんは会話したことすら無いだろ」

 図星をさされて言い訳をしている。

 そんな感じだ。

「ううん、話した事はあるよ」

 三崎君はえっ?て顔をする。

 彼は私が知佳と同じ塾の同じクラスに通っていた事を知らない。

 彼自身はもっと頭のいい、私立トップ高を狙えるクラスにいたらしいから。

 でも塾の事はまだ黙っていよう。

 取り敢えず無難な方で。

「私は糀谷こうじや、彼女は小島こじま、五十音で名前が近いでしょ。だから試験の時は席が前後だった訳。

 さてその辺は後で、病室に向かいましょ」

 勿論これも嘘じゃ無い。

 本当の事も言っていないけれど。

 彼は何か戸惑っている様子。

 ちょっと焦りすぎたかな、私。

 でも走り出したなら、きっちり走らないと。

「面会に来たんでしょ。早く病室へ行きましょ」

 色々誤魔化すためにもここは行動。

 三崎君を誘って病室へ。

 この前と同じように奥のベッドはカーテンが半分閉まっている。

 そして右手前のベッドは空。

 左側ベッドの2人は外出中の様子。

 そしておばさんは窓際の椅子でうたた寝をしていた。

 お、チャンスかな。

 そう思った自分をちょっと反省。

 ここはあくまで病室。

 私達は知佳のお見舞いに来たクラスメイト。

 まずはそのスタンスを守ろう。

 三崎君に常識外れと思われたくないし。

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