1-3 僕と知佳と糀谷さんと
第22話 君は誰だ
家に帰って部屋で夕食までの間休憩。
今日は両親ともにいるから夕食を作らなくていい。
のんびりしようかと思ったらスマホがメッセージ着信を告げた。
『花月朗』からのメッセージだ。
仕方ないなと思いつつパソコンを起動する。
VRアダプタを接続し、いつものオープンテラスへ。
「至急頼みたいことがある」
花月朗には珍しい。
もったいぶった仕草や挨拶無しなんて。
「何事だ」
「まずはこのメール、指定場所に送信して欲しい。このままの件名と中身で」
ちらっと見ると中身は英文、暗号化もされていない。
「何だこのメールは」
「アメリカの精神科医への問い合わせメールだ。つい最近、VR接続中に意識を失った中学生がいて、その対応をしたらしい」
「それを早く言ってくれ」
直ちに言われた通り、メールを送信する。
「それでどうだ。知佳に対して有効そうか」
「まだちゃんとした論文を読んでいない。論文誌の予告欄でそれらしい文章を見つけただけだ。なおこれは聡君の名前で書いてある。小島知佳の症状、病院、担当医師まで含めて実名でな。なお聡君は英語が苦手だとも書いておいた。だから多分電話でいきなり問い合わせられる事は無いだろう」
ちょっと気分が落ち着いてきた。
「それで何を依頼したんだ?」
「取り敢えずこういう症状なので、有効な治療法があるか論文を読ませて欲しいと書いておいた」
なるほど。
「ありがとう。助かる」
「助かるかどうかはまだわからない。タイムリミットも刻々と近づいているしな」
「タイムリミットとは何だ」
「小島知佳が同じ学年で留年することなく学校に入れるタイミングだ。聡君もそのためにわざわざノートを取っているのだろう。本来はノートを取らない派なのにな」
そんな事まで知っているのか。
そう思って、ある事に気づいた。
「何故その事を知っているんだ。僕がノートを取らないという事を」
「教室内の監視カメラで見れば一目瞭然だろう」
いや、それは。
「違う。確かに今の高校には監視カメラがある。公立高校は数年前に事件が起こってから全部の教室にカメラを付けたからな。それにこの前見舞いに女子2人が来た時にノートの件は話していたと思う。僕が嫌々ノートを取っているとかも。
でも中学時代は教室に監視カメラは無かった。それに先生の手前、ノートは一応広げていた筈だ。落書きしかしていないがな。
だからネット上の知識ではその事を知る可能性は無い筈だ」
そう、それを知っているのは何人かしかいない筈。
いずれも僕に近い、実在の人物だけだ。
「なら誰かが言った情報を拾っただけだろう。大した事じゃ無い」
花月朗はそう言いはする。
でもいつものような理路整然という感じの反論では無い。
「花月朗、お前は本当は誰なんだ」
「私はプログラム。プログラムとデータの集合体だな」
「ではお前を作ったのは誰なんだ」
「それは秘密という奴だな」
暖簾に腕押し、糠に釘。
でも僕の脳裏にはある名前が消えなかった。
でもその名前は出したくない。
僕にも花月朗にも、まだ色々早すぎる。
今はまだそんな気がする。
僕が臆病なせいかもしれないが。
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