第21話 陰謀元の状況証拠
「某国がどんな事をしようとしているか。例えばメールだけでも色々分析が出来る」
花月朗は数通のメールらしい書類を展開する。
「例えばこのメールだ。
『計画は実現しなかった模様。念の為関与各部との接触を断て』
これはUTCで4月20日金曜5時05分、日本時間に直して午後2時05分のメールだ。金曜日の午後2時に何かが起きる筈だった事を知っている奴の文面だな。無論発出先から使用者がわかるようなメールでは無い。東欧の第三国にある正体不明のメールサーバから発出されている訳だ。
次に4月28日土曜日日本時間9時00分、このメールサーバのあるメールアドレスにメールが届く。
『準備完了したとの連絡あり』
そしてさらに日本時間12時20分。別のメールアドレスからだ。
『事象発生せず。決行如何』
これはすぐ返信されている。
『事象にかかわらず決行せよ』
こんな感じだな。どういう動きかはわかるな」
僕は頷く。
1つ目のメールは先週の停電計画が失敗したというメール。
2つ目のメールはおそらく真宿変電所に爆薬を設置したというメール。
3つ目のメールは『停電は起きなかったが、騒擾発生企図行動はどうするか』の問い合わせ。
4つ目のメールは『停電するしないに関わらず騒擾企図行動は実行せよ』というメールだ。
「このメールの使用者が某国な訳か」
「この時点ではあくまで正体不明のサーバの、正体不明者だな」
花月朗はそう言って、続ける。
「だから使用者が誰かを調べるため、まずはサーバのWHOIS情報を見た」
知らない言葉が出てきた。
「WHOISとは何だ」
「このアドレスのサーバを何処が管理しているかの問い合わせだ。その情報を元にサーバの管理会社と管理者、連絡先がわかる。
そしてこの管理会社を調べるとだ」
検索結果がささーっと流れる。
「●●●●にあるレンタルサーバー会社とわかった。ここの業務リストでも出てくればいいのだがそんな物は無かった。
そこでこのサーバに拠点を置いているWebサービスなり何なりを調べてみた」
だだっとリストが流れる。
「どう見ても犯罪系だな。真っ当そうなものが無い」
「ああ。その通りだな。詐欺まがいのもののオンパレードだ。
ただこれも残念ながら使用者の特定に至る情報は見つからなかった
なのでこのサーバの通信を3日程盗聴させて貰った」
「盗聴?」
どういう事だろう。
「詳細は省くが、対象と同じネットワーク内にいれば他のコンピュータとの交信の全てをのぞき見る事が可能なんだ。プロミスキャス・モードと言ってわかるかな。無論盗聴を判断するツールもあるが、やり方次第で誤魔化すのは今の時代なら簡単だ。防御より攻撃の方が数倍易しいからな。
そんな訳で通信記録を拾って解析させて貰った。その結果、同地域の他のレンタルサーバと比較していくつか特異な点が発見された。
例えばこの通信先の国別リストだ。色々現実に沿って修正済み」
僕の前に円グラフが表示される。
「明らかに商業サーバとして、普通でない国が出てきているのはわかるな」
そう。日本、米国、中国、韓国、そしてとある国の名前が出てきている。
日本との商取引は多くないはずの、先程まで話題に出てきた某国だ。
「これまた一目瞭然だな」
「裁判を起こせる程の直接証拠では無いがね。状況証拠としては立派な物だろう」
花月朗の台詞が皮肉っぽく響く。
「こんな感じに色々と繋がっていく訳だ。他にも資金提供のメール等もある。その相手先の会社なり個人なりをこんな感じに調べていく。結果的に状況証拠が色々と積み重なっていく訳だ。
もちろん警察等の公的機関はこんな犯罪めいた捜査は出来ないがね」
なるほど、色々な事案の概要がやっと僕にも繋がって見えるようになった。
しかしちょっと疑問もある。
「どうやって花月朗はそんな知識や能力を手に入れたんだ。最初から入力してあったのか。それとも実態は専門家の複数チームのようなものなのか」
奴はお馴染みマントを翻す仕草をする。
「この世界内に数日でもいれば自然と身につくものだ。方法論もスパイウェアの実物もいくらでも転がっている。強いて言えば日本語だけでなく英語も読めるとかなり有利。大抵の資料やツールは英語ベースだからな。
さて、そろそろひとつ手前の駅だ。接続を切った方がいいと推奨する」
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