第19話 ニュースは何処まで真実か

 それぞれの記事を読んでみる。

 まずは『真宿区の変電所で爆弾騒ぎ』の方だ。

『警視庁は本日午前10時ころ、真宿区内の無人変電所に時限式の爆薬等が仕掛けられてた事を発表した。爆薬は自家製と見られる。

 警視庁及び邦京電力に爆発物を示唆する情報が届いたことから、邦京電力社員が該当場所を確認したところ、紙袋入りの不審物を発見。警視庁の対策班が出動し処理した。なお、停電等の被害は無し。

 警視庁では今後詳しい捜査を行うとしている』

 これだけ、事件背景も何もない。

 そしてデモの方の記事を見てみる。

『警視庁は本日、真宿区内でデモに対し抗議していた50代の男を、警戒中の機動隊員に対する公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕した。同庁によると、逮捕容疑は午後0時30分ごろ、東京都真宿区西真宿1丁目の路上で歩道からデモ隊の方へ出ようとして機動隊員に制止された際、隊員を蹴ったというもの。「やっていない」と容疑を否認しているという。

 なお付近にいた関係者の話では「そのような事はやっていない。彼は温和な人間であり、そのような事をする人間では無い」と話した。

 街頭活動等社会運動に詳しい●●教授談『この逮捕は、形式上も内容上も大変不当なものであり、市民の活動に対する明らかな弾圧だ。警察は一体何を守っているのか。そもそもこのようなデモが行われる事自体が社会に対する犯罪であり許される事では無い』』

 うん、ねじ曲がっているな。

 これだから最近の新聞は油断ならない。

 事実関係として信頼出来るのは『警視庁は……いうもの』までだ。

 あとは『否認しているという』という伝聞、得体の知れない関係者談、思想的に中立的立場か大変怪しい識者とやらの談話。

 今回の事件のタネをある程度知っている僕から見たら何とも馬鹿馬鹿しい。

 思わずため息が出る。

「ため息をついても世界は変わるまい」

 イヤホンから花月朗の台詞が入った。

「そうだけれど、あまりに馬鹿馬鹿しくてさ」

「そういう傾向の記事を望む者もいる。ノイジー・マイノリティが勝手な事実ファクトとかを並び立てて抗議しまくっているのに流されているせいもある。

 これもまた情報戦。ネットワーク犯罪と同じ。偽情報でDos攻撃をかけられているようなものだ。まあ人には聞かない自由もあるからな。あまり嘘ばかりのメディアはそのうち支持を失うだろう」

「そううまくいくものかな」

「集合知はまんざらそう間違うものでもないさ。たまに海に向かうレミングスのような行動もとるがな」

 花月朗はどこまで本気かわからない。

「まるで人類が滅びてもいいような感じだな」

 だからそんな感想をぶつけてみる。

「ご冗談を。私はネットワークの怪人。人類に消滅されたり文化衰退されると困る立場だ。色々と程良く繁栄して欲しいところだね」

 台詞と黄金仮面の笑顔が似合っていやがる。

「さて。暇なようだからちょっと面白いものを見せてやろう。VRアダプタを装着するがいい」

「何だ。今は電車乗車中だぞ」

 あと30分程で家の最寄り駅だ。

「20分もあれば足りる。

 これから話すのは私がいかにしてこのテロのネットワークを調べたか、そのダイジェストだ。何故私が活動しなくてはならない事案が増えたのか。その原因は何なのか。どうやって私がそれを知ったか。その説明及び解説だ」

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