第18話 時間つぶしのその後に

 ハイキングと言った手前すぐには帰れない。

 場所を変えて公園の反対側方向へと歩き、ベンチに座ってスマホを取り出す。

「それにしても毎回鍵を開けたり監視カメラを乗っ取ったり色々万能だよな。何かそういうプログラムでもあるのかい」

 気になった事を聞いてみる。

「そんな特殊なプログラムは知らない。私がやっているのは伝統的かつ確実な方法だ。例えばフリーな監視カメラでパスワード入力中の手の動きを見るとか。監視カメラで見える範囲にパスワードを書いた紙を貼っている馬鹿も未だにいるしな。共有ファイル内にパスワードを記載した書類が入っている場合すらある。

 それでも駄目ならばだ。個人情報等からパスワードの可能性のある文字列を合成して辞書攻撃をかけてもいい。興味のありそうな内容のメールにウイルス仕込んで送りつけてもいい。

 侵入口に使う空きポートだって目標を絞って地道に探すだけだ。色々な種類のポートスキャンを組み合わせてな。それこそ時間さえあれば聡君でも出来る方法ばかりだ。まあ速度は大分違うがな」

「他には?」

「知ってもあまり面白い事は無い。防ぐ方法なんて簡単だ。不必要にネットに繋がない。知られたセキュリティの穴はさっさと塞ぐ。ネットワーク上のものならパスワードより生体認証を使うとか。面白い解決策も万能の鍵なんてのも存在しない。

 現実にはチートなんて滅多に存在しない。つまらない積み重ねがほとんどさ」

 ふと今の花月朗の台詞に僕は既視感を感じた。

『現実にはチートなんて存在しないんだよ。私達が出来るのは単なる積み重ね』

 誰かがそんな事を言っていたような気がする。

 それが誰か思い出せないけれど。

「さて。まもなくこの付近にデモの連中が集合する。早すぎるが奴らは暇だし警戒心が強いからな。話し合いが出来ない奴らだから離れておいた方がいい」

 花月朗に言われて公園を出る。

「お勧めの場所はあるか。時間を潰せそうな」

「まっすぐ歩いて地下鉄大東京線の真宿西北口駅方面に歩け。8時からやっているパン屋がある。イートイン出来る場所もあるし、マスドナルドより安上がりだ」

 花月朗は微妙にせこい事を言う。

 でも僕の嗜好と懐具合から見て、彼の意見は正しい。

 だからその意見を採用させてもらった。

 20分費やしてパン屋へ辿り着き、230円分買って朝食タイム。

 ちなみに時間はやっと8時を回った程度だ。

「事案発生は」

「朝9時に爆弾を仕掛ける役の警備員の仕事が終了する。そしてデモ出発が12時。タイマーは10時にセットしてある。

 たれ込みは9時半、警視庁宛のネット窓口と110番あて自動音声、電気会社宛自動音声だ。電話発信元は適当にネット上に作ってある」

「なら9時過ぎには真宿を離れた方がいいな」

「ああ。聡君の趣味試行的には植野の科学博物館なんてどうだ。620円かかるがそれなりに時間は潰せるし無い余滴にも悪くない」

 よくも調べたなと思う位に僕の嗜好をついてくる。

 まったく。

「仕方ない。そっちも話に乗ってやるとするか」

「素直に聞いてくれて嬉しいよ」

 それは皮肉か、なんて思いながらパンをかじる。


 博物館を見終わって、ついでに公園を散歩して。

 もういいだろうと思って駅に戻る。

 帰りの電車の中でニュースを確認。

『真宿区の変電所で爆弾騒ぎ』

 そして関連するニュースもみつけた。

『警視庁、警備過剰。デモ抗議で不当逮捕か』

 爆弾騒ぎよりよっぽど大きく詳しい記事だ。

 内容を読もうとして、念の為辺りを確認する。

 休日で車内はそれほど人が多くない。

 所々に空席がある程度だ。

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