第16話 変電所は地下20メートル
決行は土曜日。
だが先立っての作業がある。
僕は学校からの帰り道、2駅手前の駅で下車する。
目的地は駅から徒歩3分のコンビニだ。
花月朗に言わせると、ここのコンビニは防犯カメラの扱いが甘い。
防犯カメラはメモリレコーダーで録画。
しかし記録媒体として使用しているカードの容量が小さすぎるそうだ。
現状では4日間もあれば前の記録は上書きされてしまうという。
そのコンビニで印刷してきたバーコード付き注文詳細を店員に渡す。
やる気の無さそうなバイト店員で、こちらとしては大変よろしい。
1000円ちょっとの代金と引き換えに手に入れたのは小冊子ほどの大きさの箱。
店内で箱を完全にカバンに入れる。
来た道と違うルートを通って別の出入口から駅へ。
ちなみにこのルートは花月朗お勧め『外に防犯カメラが向いていない道』だ。
無事家に辿り着いて箱を開ける。
中身はUSBメモリ1本とUSBタイマー1個。
USBタイマーの方は電池入りのタイプだ。
なおUSB等を購入した通販の使用名義は当然偽物。
店頭受け取りで某チェーンのバーコード提示受け取り方式ならメールアドレスがあれば簡単に作れるし受け取れる。
ちなみに幾らでも作れるフリーのメールアドレスでもOKだ。
さて、作業開始とこう。
まずはUSBメモリをパソコンに接続し、胃メージャーというソフトを起動。
このソフトで花月朗が送ってきたデータを書き込む。
このパソコンの痕跡をデータの中に残したくないからだそうだ。
USBメモリに入れているソフトは花月朗曰く。
『スタックスネット』という歴史的なワームの変種らしい。
USB接続でもネットワーク接続でも広がるタイプの不正プログラム。
ただ最新のOS環境では感染力は無いダミー。
『不正動作をした事を気づかせる』ためだけの花月朗特製プログラムだそうだ。
普通のUSBメモリの作業が終われば今度はUSBタイマーの設定。
これも花月朗に言われた通りセットする。
こっちは僕のパソコンで直接扱っても大丈夫だとの事。
「作業終了」
と言っても別に花月朗が答えてくれる訳ではない。
奴は奴なりにこっちのプライバシーを気にしてくれているようだ。
僕がVR使って外に出ている時にしか接触してこない。
まあ緊急で何かが起これば別なのだろうけれど。
そんな訳で準備は全て終わって。
あとは3日後を待つだけだ。
お約束の早朝出発。
電車は当駅5時35分発、つまり一番電車である。
なお家族には友人とハイキングに行ってくると言ってある。
目的の真宿区民学習センターは駅から結構遠い。
地下をずーっと歩き通して地上に出て信号渡って公園横切って。
真面目に歩いても10分ちょっと。
それでも午前7時前に無事目的地についた。
なお目的地はセンター内だがセンターには普通に入らない。
通常の入口から見て建物の裏側にある目立たない扉が今日の目的地だ。
「こんな処に変電所がある訳か」
「厳密にはここの地下20メートル程度の処だ。普段は無人。通常は1日1回、12時過ぎから巡回がおおざっぱに点検するだけだ。
ただ中はスマホの電波が届かない可能性が高い。つまり私からの指示は困難だ。
あと万ボルト単位の高圧電線がその辺に伸びているからな。出来るだけ線には近づかない事をお勧めする」
「わかった。目的地は制御室裏側のラック、入口から見て制御室側の上から3段目の機械のUSB端子だな」
「その通りだ。では人が少ないうちに頼む」
そんな訳でポケットから軍手を出して着装。
扉を開ける。
鍵はかかっていなかった。
「電磁式だからこっちで開錠も施錠も出来る。毎度お馴染みネットワーク化の弊害という奴だ。なお稼働中の監視カメラは無い」
「了解だ」
僕は中に入る。
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