第14話 行動の対価
なるほどと納得して、ふとある考えを思いついた。
僕には出来ない事。
だが花月朗なら、自称『ネットの全てを知る存在』の花月朗なら出来る可能性のある事だ。
「花月朗、ひとつお願いというか提案がある」
「何だね、聡君」
奴をわざとらしく身体をこっちに向ける。
「取引だ。僕は花月朗の要請で行動する、その対価が欲しい」
奴はわざとらしく腕を組んだ。
「それは対価の内容にもよる。例えば金銭等は不可能だ。用立て出来ない事も無いがガチの犯罪に手を染める事になる」
その条件なら大丈夫だ。
僕は一度息を止め、そして口を開く。
「僕が欲しいのは情報だ。VRが原因で意識を失った、もしくはマインド・アップロードに成功して意識を失った。そうした事例と、それから意識を取り戻した事例だ。
研究機関に無いのなら市井の情報からでいい。例えば年齢条件とか性別条件とかが成功の資質ならば。研究機関よりそっちの方が成功率も高いし情報もあるだろう。
その情報と対価なら、僕は無条件で花月朗の手下として動く事を誓おう」
花月朗の動きが一瞬止まった。
仮面で表情が見えないので、どういう受け取り方をしたかはわからない。
でも僕は花月朗がこの案を認めてくれるのを期待するしかない。
実際は花月朗には僕の提案を飲む必要なんて全く無い。
彼は既に情報で僕を縛っているのだ。
でももし僕が感じた花月朗の姿が少しでもあっているのならば。
あえてこの提案を飲んでくれるだろうと期待している。
そう、あくまでも期待だ。
そして花月朗は頷いた。
「いいだろう。その提案を認めよう。
私は情報を探索して提供し、君は現実世界の行動力を提供する。
ただその協約を締結前に聡君、君にひとつ質問だ。
目的のデータに辿り着くには相当な時間が必要だろう。
例え私が私が全力を尽くしたとしてもだ。
その間も聡君、君は私を信じていられるかな。
本当に調べていると信じていられるかな」
なるほど。
何もしないように見えるのと、実際に何もしないのとの違いはわからないぞと。
でも僕は頷く。
「僕も信じるしか無い。僕の近くにある方法論では花月朗が一番可能性が高そうだ」
奴は大きく頷いた。
「ならば協約は成立だ。この花月朗、その情報を真摯に探す事をここで誓おう」
「ありがとう」
「お互い様という奴だ」
彼はそう言って頷いてから続ける。
「小島知佳も幸せな奴だ。ここまで思われている事を知ったら、彼女もさぞかし嬉しいだろう」
やはり僕の目的はばれていたか。
まあばれるとは思っていたのだけれども。
何せ花月朗は僕についての主要な情報は全て把握しているようだし。
「ただ、もし条件が年齢と性別なのだとしたら。間違いなく通常の研究事例からのデータは出てこないだろう。
精神医科の事例のデータか、さもなくば個人のブログとかそういったものまで調べる必要があるようだ。
なかなかに道は遠いし時間もかかるだろう。それだけは心しておいて欲しい」
花月朗の言う通りだろう。
でも、それでも。
「僕や一般人が調べるよりは遙かに早くて正確だろう」
奴は大きく頷いた。
「当然だ。私はネットワーク内の存在だからな」
花月朗はそう言って立ち上がり。
そして例によってマントを翻して、姿を消した。
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