第13話 花月朗の見解

 いつもの『有明オープンテラス』。

 ここは色々な風体の分身アバターでごったがえしている。

 最近の流行は非人間系。

 ペンギンとかピンクのクマとかは可愛い方。

 バクテリオファージとか訳わからん趣味のモデリングの奴もいる。

 ここなら花月朗の本来の姿も特に目立たない。

「それで次の事案は」

 尋ねた僕に花月朗は肩をすくめて見せた。

「特にない。この前のクレカ事件はたまたま見た裏系掲示板に『売ります』情報が書き込まれたのを見たからだ。普段は細かい犯罪まで探している訳じゃ無いからな」

 そうなのか。

 てっきり犯罪対策用のbotみたいな事をしているのかと思ったのだが。

「なら今日姿を見せたのは」

「単なる定期連絡みたいなものさ。または私と君の親睦会と思って貰ってもいい。そういう機会も定期的に必要だろう」

 こいつの考え方は時に良くわからない。

「そう言えば普段は何をしているんだ」

「情報収集さ。ここはそれなりに刺激的な世界だ。生きているだけで色々な情報が手に入る。私は身体を持たない存在だからな。いくらでも情報で進化できるわけだ」

 とすると当然ながら僕以上に色々な情報に接している訳だ。

 ならばあの病院以来もやもやしている僕の疑問についても。

 すっきりと答えてくれるかもしれない。

「質問をひとつしていいか」

「何なりと」

 奴は椅子を回して正面からこっちを向く。

「マインド・アップロード等で、意識がネットワーク内に閉じ込められるような事はあるのか」

 花月朗はうんうんという感じに頷いて口を開く。

「理論上はありえない。そもそも人間の意識が身体の外に出るという事態が考えられない。VRだって実際は電気的刺激で神経で情報を受け取っているだけだ。意識がネット空間にいるように感じるのは気のせい、ヴァーチャルという奴だな」

 そう、僕もそう思うし通説はそうなっている筈だ。

 それでも僕は尋ねる。

「マインド・アップロードに成功したとしても意識は身体に残るのか」

「アップロードした原本は身体に残るだろう。ただ実際の事例はと言われると不明ではある。何せ公にされている実例が無い。ただ今のマシンの性能や脳科学の進歩を考えるとだ。何時何処で成功してもおかしくない状態ではある」

 花月朗は微妙な表現をした。

「なら何故、成功しない。または成功例が公にならない」

 奴はわざとらしく指を1本ずつ折りながら説明する。

「可能性はいくつかある。

 ひとつは成功していない。つまり出来そうだというのは勘違いだったという事だ。ただ私はそれに与しない。マインド・アップロードに成功したとしか思えない事例を知っているからな。詳しくは言えないが。

 ふたつめは権力の介入だ。アップロードに成功した事実、及びその技術を隠そうとする組織なり権力なりがあるという奴だな。

 私はこれも正しいと思わない。草の根の研究まで含めて全てを潰せるような権力組織。そんなものは陰謀論の中だけで充分だろう。

 みっつめ。成功しているけれども公にする方法が無い。つまり実験者は全て死亡するか意識を喪失した。だが通常の研究なら1人で孤独にやる事もあるまい。他にもスタッフがいる筈だ。そんな訳でこれもパスさせてもらおう。

 という訳でよっつめが私の本命。マインド・アップロードの成功にはある資質なり条件がある。それに気づいていないので研究は成功していない。そんな考えだ」

 微妙にわかりにくい表現だ。

「もう少しわかりやすく言ってくれ」

「人は100メートルを8秒台で走る事も出来る。ホーキングのような天才になる事も出来る。ただ全員がそうなれる訳ではない。

 それと同じようにだ。マインド・アップロードに成功する人間にもある条件なり資質なりがあるのだろう。そういう事だ」

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