第12話 気まずい会話

 2人のうち片方が口を開く。

「小島さんの新しいクラスのクラス委員です。一度も登校していない小島さんの様子を見に来ました。様子はどうですか」

 その言葉が事実である事を僕は知っている。

 取り敢えずおばさんの前では僕も交え当たり障りのない会話をして。

 病状とか今までの経緯をおばさんが説明して。

 おばさんを不審がらせないようにするためにも一緒に病室を辞したのだけれど。

 気まずい。

 非常に気まずい。

 2人と一緒に病室を辞してナースステーションで面会バッチを返し、エレベーターに乗ったところで。

「三崎君はいつもここに見舞いに来ているの」

 学級委員の糀谷さんに尋ねられた。

「週1回か2回。普通は毎週火曜日。あとたまに週末。学校が始まる前は毎日来ていた。でもおばさんの気持ちの負担になりそうだったから」

 僕としては毎日でも構わない。

 どうせ自転車で20分程遠回りするだけだし。

「それで小島さんは、身体的にはもういつでも目覚める事が出来る状態なのね」

「おばさんのさっきの説明の通りだ」

 そう、いつ目覚めてもおかしくない状態。

 目覚めない方がおかしい状態だ。

「それで三崎君と小島さんってどういう仲なの。中学校が同じって言っていたよね。ひょっとして恋人とかそんな関係」

 これはもう1人、穴守さんの質問。

 そんな俗な質問に答える義理は本来は無い。

 でも変な誤解をされたら知佳が迷惑するので答えてやる。

「強いて言えば戦友だ。酷い中学校で3年間戦った」

 そう、僕と知佳は戦友というのが一番近い。

 授業進度は遅くて内容も薄い。

 学級はしょっちゅう荒れる。

 無意味な宿題や無意味な校則が多い。

 あまり意味を感じさせない体育系部活動を強く推奨。

 そんな環境の学校でお互い戦ってきた戦友だ。

「そう言えばあそこの中学、うちの高校には2人だけなんだよね」

 糀谷さんはそんな状況が少しわかってくれたらしい。

「三崎君と小島さんのこと、全然知らなかったな。クラス内で少しでも話してくれていたらよかったのに」

「あくまで僕の個人的な事情だから」

 僕は糀谷さんにそう答える。

 そう、別に公にする事じゃ無い。

 あくまで僕の個人的な話だ。

「それにしても『VRに意識を取り込まれた中学生』の噂、本当だったんだね。まさか同じクラスだとは思わなかった」

 穴守さんの言葉。

「VRは意識を取り込まない。あれはあくまでインタフェイスだ」

 思わず僕に反論してしまう。

 ちょっとむきになったように見えたかな、と言った後で反省。

「でもそういう噂になっているよ。現にVRアダプタつけたまま意識不明になったって言っていたじゃ無い」

「仮にVRアダプタでオンラインの状態で強制接続断になっても、普通は意識を失ったりはしない。VRアダプタ接続によるそういった事例はごく僅か。それも恐怖系のソフトを視聴してショックのあまりとか、ポケモンショックの延長上の事例とかくらいだ。たかがディスプレイの延長上の機械に意識を取り込む機能など無い」

 今度は努めて冷静な口調で反論。

「でも三崎君も実はそう疑っているんじゃ無いの。今思うと昼休みでもVRアダプタつけて何かしているの、あれはVR世界上で小島さんを探しているんじゃないの」

「もしやっているとしたら、それはきっと無意味な行動だ」

 努めて冷静に素っ気無い口調でそう言いきる。

 たかが入出力機器の一種にそんな機能は無い。

 それは僕も充分わかっているのだ。

 それでも気がつくとこの病院周辺のVR空間で彼女を目で探している僕がいたりする訳だ。

 だから穴守さんの言った事はあながち間違っていない。

 だからこそ、ちょっと感情的にもなってしまう訳だ。

「それじゃ、僕は自転車だから」

 病院の出口で僕は彼女達と別れる。

 若干気まずかったかな、と思いながら。

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