第10話 因果応報
「今回使わせて貰ったのは無線LANとルーターの脆弱性だ。奴は古いゲーム端末を使うために古い暗号規格を使っていた。
2000年代初頭の化石みたいな暗号化技術だ。そんなの量子コンピュータを使えばあっさり丸裸に出来る。そうやって無線LANに侵入し、まずは奴のルーター設定を変更。あれは大体初期設定のままだからな。設定を変えるのなんて簡単だ。
あとはそうやって開いたポートから奴のパソコンに侵入、盗んだデータをバックアップごと消してやっただけだ。なまじデータが大きすぎてDVDに焼けなかったのが徒となった。一応彼はUSBメモリにバックアップを保存していた。でも指しっぱなしだったから意味は無い」
なるほど。
手順としては理解出来た。
実際にやれと言われたら僕にも出来る程度の技術だ。
まあ花月朗ほど高速かつ手際よく出来ないけれども。
ただ疑問が一つ残る。
「パソコンにはどうやって入ったんだ。参考までに教えてくれ」
それに対する花月朗の答は至極簡単。
「奴め費用を惜しんで割れOSを使用していたんだ。だから正規のアップデートを怖くて受けていない。つまりは穴だらけさ。悩む事も無かった」
あっさり。
何か初歩的というか間抜けというか何だかな。
「アップデートは素直にやっておけという事か」
「あれはたまに不具合が出る。だから一概にそう言えないけれどな」
確かに、ならば。
「素直な構成のパソコンを使って、標準的でないデバイスを使わず、かつ付加デバイスは最小限にしておけという事か。そうすればOSアップデートも問題ないだろう」
「世の中そううまく行かない。だからこそ私のような存在がつけ込む隙が出来る」
なるほどな、いちいちごもっともだ。
世の中は上手く行かない。
「さて。明日は火曜日、病院に顔を出す日だな。だから出来るだけ私は顔を出さないようにしておこう」
何気なく微妙に気に障る事を言う。
「そこまで調べている訳か」
「気に障ったら住まない。ただ
言っている事は正しい。
ただ僕には少し気に障る。
わかっているのだ。
花月朗が言っている事は正しいしこの件については彼は悪くない。
僕が色々狭量なだけだ。
「さらに気に障る事を言わして貰えば、クラスメイトとももう少し付き合った方がいいのではないかな。色々素っ気なさ過ぎるぞ。あの学校はまだ生徒が出来ているからいいけどな。他の学校ならいじめや仲間はずれの対象にされるところだ」
奴の言っている事はわかっている。
僕が気に障る理由もわかっている。
それは奴の意見が正しいからだ。
「取り敢えず心しておくよ」
だから取り敢えずそれだけ答える。
「ああ」
花月朗は立ち上がり、軽く頭を下げる。
「ではまた、必要な時に」
奴そう言って、ふっと姿を消した。
後は主のいない席とテーブル。
そして奴が食べ終わった食器一式が残された。
僕はキーボードで接続を切り、VRアダプタを外す。
翌日昼のニュースで、例の通販会社が業務停止中になったと知った。
システムに障害が出て、現在復旧中という。
僕が夕方、興味本位でネットで確認した時も営業はまだ再開されていなかった。
トップページがお詫び画面になったままだ。
掲示板等を見てみると苦情も多く寄せられているらしい。
まあこの会社については因果応報という奴だろう。
同情すべきは盗まれそうになったデータの顧客で、あんな体制の会社ではない。
僕の感想としてはそんなところだ。
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