第1章 僕の事情 A Side
1-1 僕の事情
第9話 次のタスク
月曜日の夕方、いつもの通り僕は公園を散歩している。
ちなみにここはVR空間だ。
僕の本体は自宅の自室にいる。
公園を一通り歩いて、何となく病院の方を見る。
知っている姿が出てきた。
僕が探している人物では無い。
むしろ会いたくない方の人物だ。
「こんな処にいても小島さんは出てこないわよ」
そんな事を言うクラスメイト風の彼女は花月朗の変装。
本性は正体不明の怪人だ。
「VR空間に意識を吸い込まれるなんて。そんな事が本当にあると思うの?」
「単に好きな公園だから散歩に使っているだけだ。他に意味は無い」
勿論言い訳だ。
この公園自体の作りはいまいち。
排気ガス臭いし。
「まあ聡君の嗜好はどうでもいいとして。早速だけれど次の作業の話よ」
「ならいつものところで話を聞こうか」
「いえ、今回はちょっと急ぎたいの」
何だろう、いつもとパターンが違う。
「何故」
「被害額をできる限り少なくしたい。早ければ早い程いいわ」
そう言う事か。
それならば、だ。
「なら外出準備をしよう。内容は移動しながら聞く。取り敢えず場所は?」
「干葉県●●市。駅から出る必要は無いわ」
「装備は」
「この前と同じ、スマホとイヤホンがあれば充分よ」
そんな訳で僕はスマホと定期、
自転車を走らせながら花月朗の説明を聞く。
「事案が起きたのは午後4時頃。某大手通販会社の契約社員が個人情報数千件をクレジットカードごと引っこ抜いた。普通はそんな事は出来ないのだが、そこの会社はバイト並待遇の奴にシステム管理をさせていたらしい」
「なら真に悪いのはその会社だな」
正直な僕の感想だ。
「全くだ。だがそのバイト並待遇のシステム管理者、事もあろうに出稼ぎに燃える不法滞在のアルバイトさんだった訳だ」
「大事なものを取り扱う担当者は慎重に選べ。そしてそれに即したきちんとした待遇を与えろ。そういう教訓だな」
「システム部門は見かけの儲けを生み出さないからな。馬鹿な経営者にとっては経費削除対象だ。それがどういう結果をもたらすかも考えずにな。
でもまあそっちへの対処は後回し。まずは情報流出防止からだ」
駅直近の自転車置き場に着いた。
僕は空いているところに自転車を停め、駅へ急ぐ。
「今回は●●駅だ。多分、ぎりぎりで駅から届くと思う」
というので電車に乗って、いつもと逆方向へ。
6駅先で乗り換え、更に1駅分乗って降りる。
「何とか間に合いそうだ。駅のホーム北側へ急いでくれ」
言われるままに駅のホームの最北端へ。
「届いた。ちょっとそのまま待ってくれ」
言われた通り待つ。
そう、ただ待つだけ。
電車が上り下りとも1本ずつ着いて、出ていった。
あまりここで待っているのも不審だよな。
そう思った頃。
「全て終わった。お疲れ」
花月朗からそう言葉が返ってきた。
僕はここで何もしないまま、事態は終息したようだ。
「何が起きてどうなったんだ」
「それは帰り道で説明してやろう」
そんな花月朗の台詞の後。
ちょうど帰る方向の電車がやってきた。
乗り換えも考え、少し中央側のドアから乗り込む。
結構混んでいて人と人の間も狭い。
スマホを何とか見る事が出来る程度の狭さだ。
この状態ではちょっと花月朗と会話なんて出来そうもない。
「説明は後だな」
イヤホンから花月朗の声が聞こえた。
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