第8話 ひとつの結末、あるいは冒険の始まり
停電が起こらなかった金曜日の後の週末、つまり4月21日土曜日午前9時。
僕はVRネットで何気なくニュースをチェック。
そしてある小さな記事を確認した。
『警視庁公安部は電子計算機損壊等業務妨害罪等違反未遂容疑で●●の構成員3名を逮捕、都内等3箇所の拠点を捜索した』
勿論捜索場所は僕が侵入した電力会社事務所と異なった場所。
だが犯罪事実の要旨を見ると間違いない、あの停電の件だ。
僕の行動は大丈夫だったのだろうか、急に不安になる。
短い記事では何も状況がわからない。
検索してみたがあまり詳しい記事は無いようだ。
ならば確かめる方法は1つ。
僕はある
周りの空間がふっと入れ替わる。
訪れたのは久しぶりの有明オープンテラス。
目的の人物は探すまでも無かった。
あの格好でのんきにモーニングサービスのトーストなど賞味している。
仮面をつけたままだ。
「リアリティという意味でどうなんだ。仮面をつけたままパンを食べるというのは」
「
花月朗はそんな事をほざいて。
「まあ座れ。聞きたい事でもあるのだろう」
そう僕に空いている席をすすめる。
「ちょっと聞きたい事があるんだが、もう少し秘密を保てる場所は無いか」
「そうだな。ならこんなのはどうだ」
僕の手元にJavaで書かれたプログラムが送付される。
「それを使えば私の今いるところにVPN接続が出来る。取り敢えず一番安全な方法だな」
念の為ウィルススキャンしてみる。
問題無し、という訳で。
「なら一度ここを離れるぞ」
「ああ、向こうで待っている」
という事で僕は一度有明オープンテラスを離れる。
自分のパソコンのコマンドルームで渡されたプログラムを実行。
新たな専用接続が開かれた。
僕はその専用接続をくぐり抜ける。
その先、接続先のホームディレクトリで奴は待っていた。
同じようなテーブルで同じような
「どうした。そんな色々気にするような様子で」
「ニュースを見た。停電の犯人が逮捕という」
僕はそう言いながら彼の前の席に着く。
「ああ、あれか」
奴はなんでも無い事のようにそう言って頷いた。
「あの集団をそのままにしておくのはリスクが高いからな。ちょこっと当局に情報提供をさせてもらった。ご丁寧にも停電と同時に色々動いて問題を起こす予定だったようでな。その指示書と指示書のありかと捜索許可が出る程度の証拠がある場所と。そんな感じで。
なかなか日本の警察は優秀だな。情報を与えてから令状請求までたった4日。停電予定に間に合わせたよ。まあ停電は起こらなかったのだがな」
「それで僕に足がつく可能性は」
「無いな」
仮面の向こうの表情は見えない。
「そのためにあれだけ面倒な手順を作ったのだ。オフィスの全社員の予定等も確認してな。あの制服だって使用後2時間後にはクリーニング会社行きだ。
まだあのLAN回線との接続場所すらバレていない状態だ。安心してもいい。
折角私が得た手足だから大事に使わないとな」
安心したと同時に僕は花月朗の言葉の意味を悟った。
「まだ僕に色々させる気か」
「使えるコマは遊ばせない。ゲームの鉄則だ」
そんな訳で僕は正体不明なVR上の怪人花月朗を相手というか相棒に。
僅かな期間だが運命を共にする事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます