第7話 ささやかな実行行為
翌日の土曜日午前6時10分。
両親は今日も朝早くから出勤している。
休日でも半分くらいはこんな感じだ。
でもその分煩くなくていいとも言える。
僕は家を出る。
装備はBT《ブルートゥース》イヤホン、スマホ、軍手、紙袋と定期券。
自宅から最寄り駅まで自転車で15分。
そこから目的の駅までは3駅。
ちなみに定期の範囲内だ。
電車が来るまで5分、電車に乗って10分少々。
目的の駅に到着。
駅には土曜日の午前7時前なので人はほとんどいない。
なお僕はイヤホンを耳に入れている。
接続先はスマホ。
そしてスマホではあるプログラムが動いている。
花月朗が送ってきた通信プログラムだ。
「全ては予定通り。西口の北側、クリーニングロッカーを目指せ」
指示内容が聞こえる。
もっともこの辺りは手順書にも書いてあった事だ。
クリーニングロッカーで僕はあるロッカーの番号と暗証番号を押す。
ロッカーが自然に開いた。
僕はその中に入っていた清掃業者の制服上下をこそっと紙袋の中に入れる。
そして次に。
イヤホンからの指示通りに右に左に壁際にと歩いて。
到着した物陰で服の上から先程の作業服を着込む。
若干他人の体臭がするがやむを得ない。
その格好で監視カメラの死角を歩きながら外へ出る。
目標のビルまでは徒歩4分少々。
人とすれ違うたびに冷や汗が出る。
視線を上げられない。
自然ちょっとうつむいた感じで歩いて。
あるビルの中へ入る。
「ここの監視カメラや鍵は?」
「ネットワークで確認出来るようにしたのが仇となった訳だ。何でも繋げばいいというものではない」
つまり花月朗が無効化出来たという事か。
建物内は人の気配は無い。
朝早いせいなのかか休日なのか。
それでも念の為イヤホンの指示通り慎重に動く。
足音一つさえ響かないように。
そして目的の部屋に到着。
雑然とした雰囲気の、散らかった作業場という感じだ。
「左側、背の低い灰色の文書用ロッカーだ。目的のHUBはあの裏にある」
言われた通り部屋の隅のロッカーを軍手はめて少し前に出す。
金属製の業務用っぽい16ポートハブがロッカーの裏に張り付いていた。
「その右側、赤いLANコードで、『12』というタグがあるものを探してくれ」
探すまでも無く、右下に落ちている線のタグに『12』と記載されている。
「挿す口は何処でもいいのか?」
「一番端以外ならどこでもいい」
そんな訳で軍手をした手で拾い上げ、そしてハブの開いている口に差し込む。
「よし、終了だ。さっさとひき上げよう」
僕は足早に建物外へ。
休日早朝の人の少なさが現実感の無さと違和感を感じさせた。
僕は行きと逆順で駅構内まで戻り。
制服を脱いで。
クリーニングロッカーに元通りしまい。
最後に軍手で触れた部分の指紋を拭き取る。
ロッカーの操作からここまで僅か10分程度。
どっと冷や汗が出てきたのを僕は感じた。
「これでいいのか」
「ああ、上出来だ」
花月朗からの返答が来る。
「既に私の目的は達した。君自身を特定する情報はほぼ残っていない。あとは何食わぬ顔をしてカメラを避けながら外に出ろ。1時間くらい時間を潰してからまた戻ってくればいい」
「このまま改札に行って帰るのは」
「それは避けた方がいいだろう。接続時間と近接した時間に改札を出入りしたというデータを作りたくない。聡君は私の大事な手であり足だからな。無用な危険は極力避けたい」
理由はどうであれ、僕のためという事か。
「理解した。コンビニでも寄って、公園でも2周してから帰る事にしよう」
「それがいいだろう」
そんな訳で僕は歩き出す。
カメラを避けた経路を通って、外へ。
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