第6話 僕の敗北と花月朗の返答

 ただ気になる点はまだ残っている。

「もう一つ質問をしたい。

 僕以外にも適当な人間は何人もいるだろう。

 何故、この話を僕に持ちかけたんだ」

 花月朗は大きく頷いて口を開く。

「もっともな質問だ。

 だが私はそれを言うつもりはない。

 例えばこの誘いを他に何人もの人間に対して行っているかもしれない。

 逆に何か特別な理由があって聡君にだけしているのかもしれない。

 だがそれを私が聡君に説明等するつもりは無いし、その義務も感じない」

 なるほど。

 僕以外にも話を持ちかけている可能性もある訳か。

 うっかりそれを失念していた。

 でもこれで僕の質問すべき事は終わりだ。

 あとは答えない、調べられないの領域。

 ならば僕はある答を選ばずにはいられない。

 とある危険性を排除するためにも。

「いいだろう。提案を飲もう」

 金色の仮面が頷く。

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 仮面のせいで花月朗の表情はわからない。

「ならば今回協力を求める内容を説明しよう」

 花月朗はそう言って、内ポケットから白封筒を取り出す。

「聡君の公開鍵で暗号化している。中身はテキストファイルだ」

 そんな訳で早速読んでみる。

 内容は簡単な手順書だった。

 作業の根本的に重要な部分は1箇所だけ。

 後は実行者である僕の匿名性を保持するための行動だ。

「これだけでいいのか」

 思わずそう言ってしまった。

 それほどまでに単純な事だったから。

「ああ。まさにそれだけの作業だ。しかし私には必要な作業。私とて接続されていないネットワークに入り込む事は出来ないからな」

「でも点検してすぐに排除されたら」

 僕の疑問を花月朗は一笑する。

「一瞬でも繋がる事。それこそが重要で全てだ。

 私は接続と同時にあるプログラムを送り込む。それはまだ対策されていないOSのある欠陥を使って増殖し、私が望む結果を生む訳だ。

 エクスプロイトコードなんていくらでもある。閉鎖系になっているという言い訳で更新を怠っているネットワークなんて崩すのは簡単だ。まあ今回は攻撃から防御する側だがな。

 さあ、話は終わった。後は聡君が実施するのみだ」

 そう言って花月朗は立ち上がる。

「待ってくれ」

 思わず僕はそう言ってしまった。

「何かね」

「もう一度、そちらの動機が知りたい。何故こういう形でわざわざ犯罪を防止しようとしているんだ」

 花月朗は立ち上がった時の姿勢のまま答える。

「前にも言った。私が好むのは日常の安寧。今日と同じような明日が来る事だ」

「もしも思ってもみない明日が来てしまったら」

「その時は簡単だ」

 花月朗はマントを振る。

「見たかった明日を取り戻すべく行動するまでだ。違うかな、聡君」

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