第5話 怪人らしい手段
そして彼女は一瞬で姿を変える。
変化した格好は黒尽くめ。
シルクハットに黒スーツ、黒マント、仮面だけが黄金色だ。
ここ『有明オープンテラス』はアングラ連中も相当混じっている。
だから花月朗の格好もそれほど目立たない。
ただ変身したのは目立たないだけが理由でないだろう。
恐らくこれから行う『違う方法』。
それには花月朗の姿の方がふさわしい。
そう思ったからに違いない。
「さあ。それでは第1の事実を公表しよう」
口調まで変わっている。
「まずは、だ。聡君が私に協力してくれない場合。
停電は当然防げない。
聡君が通報するなり色々手段をとったところで、相手が行動に移す可能性はごく低いだろう。
その結果はどうなるか、想像してみてくれないかい」
これは予測出来た攻撃だ。
だから僕も予定通りの答を返す。
「何が起きようとそれは僕の責任ではない。その事態を引き起こした電力会社。そしてそれを実行したテロ組織の責任だ。例え死者が出ようと、僕には責任はない」
僕はあっさりそう言いきる。
「例え死者が出ようと、か。言うな。聡君がそれを防ぐ事が出来るとしてもかい」
「防ぐ事が出来るというのも、そもそも停電が起こるというのもだ。全て今の段階では仮定の話に過ぎない。それを事実と認める能力も責任も僕には無い」
笑いの表情が刻印された仮面に表情の変化は存在しない。
でも花月朗は大きく頷いてみせる事で僕に賛意を示す。
「なるほど。あえて利己主義者を気取るか。交渉術としてそれは正しい。ならばだ。私はもう少し違う作戦を述べさせて貰おう」
表情が変化しないはずの仮面がにやりとした感じがした。
「では次の作戦。
君の名は
家族は両親と妹1人。両親は共働きで帰りは夜遅い。妹は電車で3駅先の私立中学校に通っている。夕食は基本レンチンだが聡君が作る事も多い。
更に聡君は3月半ば以降付き合いが悪くなったと言われている。
原因は幼なじみの小島知佳と推定。彼女は交通事故により右足骨折の怪我を負い入院。事故の内容は3月10日17時12分、場所は中央通り2丁目交差点。原因は普通車の信号無視。
小島知佳は当初は意識はあり、怪我も生命に関わるものではなかった。それにも関わらず5日後の15日朝、病室ベッド上でVRアダプタをつけた状態で意識不明になっているところを発見される。以降意識の回復無し。原因不明。
なお修君はそれ以来趣味のプログラミングも何もせず、日がなVRネットに入り浸っている状態。学校内でも同様……」
「もういい」
僕は花月朗の台詞をその一言で遮る。
もうたくさんだ。
「要は僕の事は全て知っている。そう言いたいんだろう」
金色の仮面は頷く。
「全てとは言わない。だが君か君の大事な人物に危害を加える事が可能な程度には知っている。そういう訳だ」
完璧な脅しだ。
花月朗が告げたのはあくまで知識と可能性。
でもそれは実現可能。
故に僕は花月朗の言葉に逆らえない。
この場合僕が採るべき行動は、警察に駆け込み全てを話す事。
でもきっと、証拠は何一つ残っていないのだろう。
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