第4話 自称、プログラム

 通称『有明オープンテラス』。

 この場所は知っている人にはそう呼ばれている。

 無論本物のオープンテラスではない。

 元々は東京都の外郭団体が所有する空き領域。

 ただ管理がザルで誰でも入れる。

 それをいいことに暇人がそれっぽい外見データ什器データ店員スクリプトサービススクリプト等を持ち込んで。

 いつの間にかそれっぽい外見になった自由空間オープンスペース

 それがここ、『有明オープンテラス』だ。

 今ではVRネット上でも待ち合わせ場所や会合場所として広く知られている。

 一般人にも、アングラにも。

 取り敢えず回線が太いしメモリも大きい。

 そして管理はまるでされていない。

 つまりは色々便利な場所である。

「何なら一応暗号通信かける?それともいっそVPN直結する?」

 彼女が僕に尋ねる。

「今でも量子暗号使っているしこのままでいい。金盾が動いている訳じゃないし」

「それもそうね」

 彼女は頷いた。

「それで何から確認するの?」

 僕に尋ねる。

「まずはそっちの正体からだ。個人情報はどうせ正確な事は教えてくれないだろう。でもどんな人間で、どんな立場で、何を目的で動いているかは言える筈だ」

「まずは肝心の前提が間違っているわ」

 彼女はそう言って微笑む。

「私は人では無いわ。少なくとも人が操っている訳じゃ無い。

 存在としては単なるプログラム。メインプログラムといくつかのサブプログラム、そして分散保持しているデータの集合体よ」

 なんだと。

 予想や知識の枠外の返答に僕は戸惑う。

「そんな存在がこの世界ネットに紛れ込んでいる。そんな話は聞いた事無いな」

 とりあえず冷静な外見を保持したままそう切り返す。

「それは聡君が知らないだけよ」

 彼女はそう言ってわざとらしく肩をすくめた。

「マインド・アップロードなんて2000年代前半から研究されているわ。人工知能だって現在いまはチューリングテストをパスできる水準にある。その場合の人工知能の数え方はどうなるのかはわからないけれどね。1台、2台かな。人格を認めて1人、2人になるのかな。そこまではわからないけれど」

「でも必要メモリとかデータサイズとかは」

「人間だって常に脳の全機能を使っている訳じゃないでしょ。実際に動いている機能プログラムはそんなに大きいものじゃない。必要に応じて副機能サブルーチン知識データを呼び出しているだけで。

 実際それだからこそVRネットなんて成立しているんじゃない。違う?」

 そう言われるとその通りだ。

 でも一般常識という物が彼女の言葉を認める邪魔をする。

 だから僕は尋ねる。

「それを証明する方法は?」

「無いわね」

 即座にそう返ってくる。

「でもそれは聡君も理解しているんじゃない」

 僕は少しだけ考えて彼女の言葉の意味を理解した。

「確かに」

 証明する方法はない。

 それは彼女が言う通りだ。

 もし彼女が実在の誰かであるならば証明する事はとても簡単。

 IDなり外見なりネット経由でない連絡手段で連絡するなりすればいい。

 ただ『存在しない』証明は悪魔の証明。

 『他の全ての場合』で無い事を疎明しない限り証明できない。

「でもそれでは僕は君を信用する事は出来ない」

「ええ。だから私は聡君に違う方法で訴えようと思うわ」

 彼女はそう言ってにいっ、という感じに笑う。

 楽しく悪巧みをするような表情だ。

 結構それが魅力的に見えて、僕は思わず首を左右に振った。

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