第2話 怪人の目的
「それで具体的には何をやらせたいんだ」
話を聞くだけなら只だろう。
いざとなればVRアダプタを外し、キーボードを叩いてセキュリティに連絡をするまでだ。
僕は花月朗の『現実世界に身体を持たない』という台詞を信じていない。
どうせ誰かが操っている
誰かの個人的思惑や、まして利益のために僕が危ない目に遭うのは御免だ。
いざとなれば今のログをそのまま当局に提出するまで。
勿論行動を起こす前にだ。
「その前に、まずは私の行動の証明だな。
明日4月13日金曜日午前6時40分ちょうど。
君の自宅を含む約500世帯に1秒程の停電が発生する。
それが前兆だ。
その後聡君が動かなければだ。
一週間後の4月20日金曜日午後2時。
首都圏全体に原因不明の停電が発生。
なかなか復旧できぬまま、大混乱が発生する」
何だと。
「いきなり犯行予告か」
「これは私が仕掛ける物では無い。私はむしろ防ぐ立場だ」
奴は表情がわからない仮面のままそう弁明する。
「状況はわかっているのに止められないのか」
「仕掛けられた場所はクローズドなネットワークだ。私の力が届かない」
「なら警察に通報して」
「証拠も何も無いのに警察が動けるかな」
なるほど。
筋は一応通っている。
それでもしつこく聞いてみる。
「明日の停電は防がないでいいのか」
「防ぐ時間が足りない。それにその程度の時間の停電、企業だの重要機関だのは対策済みだし問題無いだろう。そもそも停電対象はほとんど一般家庭だ。ニートが運用しているデスクトップパソコンが電源断になるかもしれない程度だな」
「つまりは大した被害は出ないと」
「事件発生を防いだ結果、その後計画されている大規模停電を阻止出来なくなる。その方が損害が大きいと判断した」
なるほど、言っている事はもっともだ。
でもまだ信じるには早すぎる。
まずはこっちも下調べをしてからだ。
幸い言い訳はこいつ自身が提示している。
「なら次の話は明日の停電を確認してからだな。
それで後の大規模停電は防ぐ事は可能か?」
花月朗は頷いた。
「可能だ。聡君に土日に動いてもらう必要が出来るがな」
それならば、だ。
「ならこの話は実際に停電が起きたのを確かめてからだ。それでいいな」
「ああ、当然の判断だろう」
花月朗はそう言うと、すっとマントを右手で掴む。
「では、取り敢えずの間さらばだ、聡君。次に会える時を楽しみにしているよ」
台詞が終わるのと同時に、掴んだマントで自身の顔と上半身を覆い隠す。
そして。
黒い影が一瞬小さくなったように見えた後。
姿が消えた。
完全に彼の気配が消えたことを確認して、僕は操作を開始する。
20分前から現在までの
奴の正体を確認する為だ。
いざという時の証拠にもなる。
ネット上の
念の為更にさっき取得したログのコピーを作成。
それからログの中身を確認。
そして僕は愕然とした。
あの花月朗と名乗った怪人の記録。
それが全くログに残っていやしない。
僕がVR空間の馬久協和総合病院前の公園に無言で佇んでいる。
記録はそれだけだ。
あの怪人、少なくとも並の
それだけは事実として確認出来た。
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