告白
早足で歩くこと三十分、二人は全く見覚えのない通りを歩いていた。
喫茶店を出た後ケントは人通りの多い教会通りへ戻ろうとしたが、手を繋ぐアヤカがそれを頑なに拒んだので、薄暗い裏通りをジグザグに進んでともかく三人組に見つからぬようひたすらに歩き続けたのだった。
「うぅ……」
「ケントさん!」
ケントが胸を抑えて蹲った。ただでさえ青白い顔からはさらに血の気が引いて紫がかり、ゼェゼェと苦しげに肩で息をする。そんな状態でも、目だけはいつまでも殺気を帯びて光り続け、用心深く周囲を見回し続けていた。
「アヤカちゃん、ごめん。どっかに隠れて……少し休もう……」
「はいっ、えぇっと、隠れる、隠れ……どこに……あっ」
アヤカは慌てて周囲を見回して隠れ場を探し、小さなカプセルホテルを見つけると、ケントの腕を抱き寄せてそこへ駆け込んだ。
♦︎
アヤカは部屋に入ってすぐケントをベッドに寝かせると、唯一の窓にかかったカーテンを締め切り、僅かに隙間を作って外を覗いた。
5、6人の、ガラの悪そうな男が何かを探すように歩き回り、その中には以前の三人組のうちの一人も混じっていた。アヤカは顔面蒼白となって、またカーテンを閉じてケントが横たわるベッドのすぐ側まで駆け寄り、膝を抱えて床に座った。
「まだいるんだな、あいつら」
「はい……」
ケントは身を起こさず、ブルブルと震えるアヤカに向かって話しかけた。
「なんで……なんであの人たち、あんなに追いかけて来るんですか?」
「ああいうのはしつこいんだよ……一度獲物を仕留め損ねると、何がなんでも捕まえようとする」
「どうして私なんです?」
「……それは何となく分かる」
ケントはアヤカに向けて、左の袖を捲った。昨晩いい加減に巻きつけた包帯からは、生々しく血が滲んでいた。
「分かるんだよ、男なら。どうしても。それが嫌で、俺はこんなことやるんだ。ホントは俺と二人でこんなとこにいるのだって良くないんだよ」
袖を戻すと、ケントはアヤカにそっぽを向いて横向きに寝そべった。アヤカはベッドに手をかけ、その背ににじり寄りながら言う。
「屋敷に戻るのは嫌です」
「……どうして」
アヤカは答えない。答えないまま、どんどんケントの背に寄り、遂にはケントの背に寄り添うようにその身をベッドに横たえてしまった。ケントの胸が高鳴る。左手首を抑え込み、爪を立てる。
「ケントさんは、どうしてあの屋敷にいるんですか」
「……そりゃ、悪いことしたからだよ」
「何したんです?」
今度は、ケントが答えない。
「私が言えば、教えてくれますか」
「……知らない」
「私が昔何したか、ケントさんは興味ありませんか?」
「いいや、あるよ」
「……じゃあ、聞いてください」
そこから暫く、部屋に沈黙が流れた。
まさか。ケントには、以前から予測していた「ある答え」があった。
沈黙が破られた。アヤカが、ケントの予想していた通りの答えを口にしたのだ。
「私、人を殺したんです」
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