第Ⅷ篇「サムライレディ・スラッシュ」
Ⅷ
悪くない――機械仕掛けの白騎士=現代の騎馬でもあるアームスーツに乗りながら、不思議な感覚を抱いている自分に気づく。
実際にそれは悪くない感覚だった――機械化義肢ともまた違う、拡張されたロボットの手足を巧みに操る。
乙の駆る白騎士――静穏性を活かし、音もなく湿地帯を疾走。
正面から仕掛ける日向のアームスーツを側援――廃品処理場の至る所からわらわらと出現するガードロボット――乙の駆る機体の手にする
レーザーサイトがもたらす
一体、二体、三体――こちらの狙撃に気づいた一群が転進――構わず白騎士を前進させる――
乙=東の林から陽動/日向=南の正門から突破――二面攻撃。
二手に分かれる敵の防衛ライン――ガードロボを前面に立て、荷台に即席の銃座を設置したトラックの影から、シンジケートの連中が猛反撃――めくるめく銃火が闇夜を花火のように飛び交う。
白騎士が一旦、林へ戻る/水牛が盾代わりのコンテナへ隠れる。
勢いづく敵――二体のアームスーツを包囲しようと防衛ラインを押し上げる――そこに突如、
戦術班の支援砲撃――アームスーツが敵の注意を引き付けているうちに、北西の森へ回り込んでいた軍用機体が一斉に攻撃開始――背部に増設された二門のガトリング砲を唸らせる。
予期せぬ背後からの猛攻に、総崩れになる敵の防衛ライン――攻めているつもりが、実は逆に包囲されていたことを悟った敵が浮き足立ってバラバラに倉庫や建屋の陰に殺到。
お互いが邪魔になって衝突・トラックが激突・ガードロボに足を引っかけすっ転ぶ――浮き足立った敵団へ日向+乙+戦術班が波状攻撃を仕掛ける――二体のアームスーツと五台の軍用機体が入れ代わり立ち代り、休むことなく十字砲火を見舞う。
銃座に取り付いた男らが薙ぎ倒される――ガードロボがモグラ叩きのように粉砕される――運転手ごと蜂の巣にされたトラックが暴走――火だるまと化して資材倉庫に突っ込む=爆発炎上。
敷地のあちこちで火災/立ち込める煙――戦意喪失したシンジケートの人間が次々に投降――戦術班が鎮圧用ネットで拘束――ぼろ雑巾のようになった建屋の一つにまとめて転がす。
敵性施設の大半を制圧完了――乙=残存するガードロボを機体の
《確かになかなかの機体だ》日向=予断なく周囲を見回りながら。《油断するな、アリス。まだ奥に立て篭もった連中が残っている。それに、ここまで攻め込まれながら敵のアームスーツが出て来ないのはおかしい。反撃する機会を窺っているのかもしれん》
《確かに……まだ例の
網で捕らえた敵を引きずる戦術班の機体。半壊した倉庫と建屋。
残るは敷地の北側に建つ三階建ての事務所のみ――退路を立たれた敵集団の中でも、真っ先に篭城を決め込んだ厄介な連中。
乙の即断即決――白騎士の装甲を開く/操縦席の奥からカタナを取り出し、硝煙覚めやらぬ戦場に生身を躍らせる。「私が突入する。屋内戦なら
《……お前のその突撃癖は、誰に似たんだ》日向=かぶりを振るように水牛を旋回――近くの機体へ指示。《ダニエルとカスパル。お前たちも機体を降りて、アリスを掩護しろ》
《はいはいほー》《姫のお供、喜んで頂戴つかまつる》軍用機体のハッチからうきうき飛び出す男たち――突撃銃を担いで先陣を切る副長に続く。
その様子を確認しながら、日向=作戦指揮官へ状況報告。《こちらB分隊。敵施設をあらかた制圧し終えた》
御影の応答。《こちらでも確認した。
何かを言い淀む気配――すぐに限定回線へ。《何があった?》
《――カディル親子が共に行方不明だ。シンジケートに連れ去られた可能性が高い。いま捜査課が全力でその行方を追っている》
《そうしてくれると助かる。優れた追跡手の目が必要だ》
《……この件を要撃小隊には知らせたのか?》
《とても報告できんよ。
《アリスにも伏せておいた方がいいのだろうな……》何かと乙が可愛がっている小隊長――師匠に負けず劣らず勝気な少女の剛胆な姿を思い出す。《確かに前線には進んで先陣を切る者が必要だ。過去の事件でも、活路を切り開いたのはあの手の人材だった》
頷く御影。《そうだな。彼女らは、我々が失ったものを持っている気がする。……だからこそ、今はまだ側で見守る者が必要だ。引き続き、こちらで現場をサポートする。頼んだぞ》
通信アウト――あらためて突入した乙を掩護しようと、アームスーツの機銃を構え直す。ふいに機体の複合センサーが、新たに出現した熱源反応をキャッチ。《これは――》
乙――戦術班員二名を伴い、敵の立て篭もる事務所へ侵入。
一階のロビー――小奇麗なカウンター横を素早く走り抜ける。
狭苦しい廊下――刃渡りの長いカタナを存分に振るえない場所。体が成長したことで生じた予期せぬ弊害――手足が伸びてリーチが長くなった分だけ、狭い空間では思いっきり戦えなくなった。
私も大人になったんだな――そんな実感と感傷を抱きながら、カタナの反りに手のひらを添える。「転送を開封」
輝きの中で再構成されるカタナが、刃渡り四十センチ程の
新たなカタナを手に屋内を進攻――
「うっ」同伴する戦術班員の呻き――炎に照らされる薄暗い室内。
机と椅子の並ぶ洒落たオフィス=今は書類のぶちまけられた床一面が真っ赤な血の海に――血だまりに沈むシンジケートの死体。
「こりゃなんだ?」「仲間割れか?」顔をしかめる男たち。
「――違う。銃じゃなく刃物で
男たちが銃を構え直す――乙=全身の力を抜いた
瞑想するように細めた隻眼――全身の感覚を研ぎ澄まし、光・音・気流・臭いを肌で直に感じ取る――没我の境地――開かれた拡張知覚が、周囲の事象をあたかも己が手足のごとく掌握。
そこか――電光石火の斬撃が、天井から降ってきたギロチンのような刃を弾く――がきんっと火花が散る――頭上からの必殺の一撃を防がれた黒い影が、さっと部屋の奥へ飛び退いた。
「……貴様がジョン・エリスか?」窓明かりに浮ぶ相手を睨む。
「惜しいな。俺の名はリーパーズ・ジョンだ、サムライレディ」
男――黒いシルクハット+黒いタキシード+目元を覆うマスク=まるでTVに登場する
「ここの連中もお前がやったのか……?」間合いを測りながら、切っ先を斜め後ろへ上げた
「役立たずの腰抜けはいらねえのさ」手にしたJ字型ステッキ=仕込み刀を繰る繰ると回しながら、うそぶく。「感謝してくれよ。俺はあんたらの手間を省いてやったんだからな」
くくくっ、と嘲笑う処刑男――刹那、宙で回転するステッキが意思を持った獣のように襲いかかってきた。
予備動作なしで投擲される凶刃――動じることなく袈裟切りに。
刃で武器を封じる
リズミカルな男たちの
ラケットで思いっきり叩かれたボールみたいに吹っ飛んでゆく処刑男――パーテーションをぶち破り隣のブースへ転がる。
追い討ちをかけるように戦術班の銃撃が殺到――瞬く間に机や間仕切り板が蜂の巣に――室内に硝煙と粉塵が立ち込める。
〝やたらに乱射するな〟――乙のハンドサインに気づいた戦術班の二人が射撃停止――塞がった視界に眉をしかめながら、残心の姿勢で構えを保つ――敵を撃ちもらしていた場合の対処法を検討。
刹那――後ろで銃を構えていた戦術班の真横から、猛然と黒い影が襲いかかって来た。「あははははははははっ」
魔術師のような男が手刀を放つ――狙われたカスパル=とっさに突撃銃を盾に――構うことなく繰り出される手刀が、蒼白い炎を引いて銃身を真っ二つに引き裂いた。
絶叫を上げ倒れるカスパル――抉られた制服の肩口が炎上。
「カスパル!」床を転げ回って火を消そうとする相棒を庇うように立ちはだかったダニエル=銃を乱射――両腕の蒼い炎を揺らめかせ、嗤い声を残して男が物陰に身を隠す。
「この道化が!」踵を返して後を追おうする乙――その背後の闇からまたも黒い影が飛び出す――何かが振るわれる気配を察した乙がとっさに身を屈める――次の瞬間、頭上に銀の軌跡が走った。
書類棚・柱・インテリアの観葉植物――乙の周囲に存在したそれらがピシッと音を立て、細切れのスライスと化して崩れ落ちる。
驚愕に足を止める――焼け焦げた制服を脱ぎ捨てた相棒を助け起こそうとしていたダニエルの顎が、かくんっと落ちる。
「なかなか手応えのある獲物だ」部屋の右手から男が現れる。
「殺りがいがあるってもんだぜ」部屋の左手から男が現れる。
「楽しませてもらえそうだな~」部屋の入口から男が現れる。
最後に部屋の奥から現れた男が、脱げたシルクハットを被り直して下卑た笑みを浮かべる。「さあ、狩りの始まりだ」
服装も背格好も同じ四人組の男たち――一人目が蒼い炎の手刀で壁を撫でる=炎上する室内。「俺は〝
二人目が銀に輝く糸を繰る。「俺は〝
三人目が腕から紫電を放つ。「俺は〝
四人目が自在に伸縮する機械化義手を蛇のように
「……おかしいですわね。敵の反撃が止みましたわ」先頭を飛ぶ天姫が宙で身を翻す――その場で滞空/訝しげに辺りを見渡す。
「アタシらにビビッて逃げちゃったんすかね~?」
「このステージの敵、みんな倒しちゃったみたいだし……」
別ルートを進んでいた比叡+春奈が合流――さらに後ろから戦術班の軍用機体が追いつく。《
しばしの思案――すぐに槍を構え直す。「いいえ、問題ありませんわ。ですがこの先は罠を警戒し、密集して移動しましょう」
再び先陣を切る白金の輝き――後に続く比叡+春奈――その後ろに戦術班=一列縦隊の外に
編隊を組んで進む三人+六台――出し抜けに広い空間へ。
「これは……」ベルトコンベアや作業アームが並ぶ作業空間――さながら悪の組織の秘密基地といった
「お二人とも、伏兵にご注意なさって!」三つの輝きが散開――天井付近まで積まれたコンテナの隙間を縫うようにジグザグ飛行。
物陰から砲座や狙撃手に奇襲されたりしないよう、入念に索敵――ふいに羽の探査が、作業機械の間を移動する存在を捉える。
「こちらに接近する機影ありですわ。――各員、全方位警戒!」
宙で身を捻る天姫=槍を掲げる――比叡=両腕の機銃を構える――透明化する春奈=音もなく機雷散布――その下で軍用機体が互いに背を守り合うようにして、アームの機銃を四方へ向ける。
全方位要撃態勢――さながら現代式の
緊迫する空気――そして貨物コンテナの陰から、それが出現。
全高二メートル半/黒い装甲/山羊のような両脚/元は米軍の開発した〝着るロボット〟=〈サテュロス〉式アームスーツ。
まるで機械仕掛けの黒山羊――手にしたどでかい
慌てて飛び退く比叡――近くにあったコンテナが一瞬で穴だらけに――すぐさま柱と天井を蹴って射線から逃れる。
《ちょっ、こいつマジやべーっす!》粟を食った比叡の無線通信。
まさに桁違いの火力――さらに羽の探査が新たに接近する敵の姿を浮かび上がらせる――大胆に姿を現す黒山羊の群れ×五体=資材の山を鋼鉄の蹄で次々と踏み越え、機関砲を構える。
一斉砲火――耳を
こちらの陣形を分断しようとする動き――天姫=飛来する砲弾を抗磁圧の鎧で弾きつつ、黒山羊の一体に槍の穂先を向ける。
先端部の
《サーイドゥニー!》《イムダ!》《ヤプマ!》《ボーイシア!》
訳の分からない異国の言葉――黒山羊のスピーカーから発せられる搭乗者らの叫び声の数々――まるで必死の命乞い。
思わずハッとなり槍を止める――アラビア語かトルコ語らしき叫びに交じった聞き覚えのあるフレーズ。《ヘルプ、ヘルプミープリーズ!》《ドント・ショット!》《
愕然――事態を悟った途端、背筋が凍る思いがした。現実逃避しかける心を奮い立たせ、大急ぎで仲間たちにそれを知らせる。
《 みなさん、ただちに攻撃を中止なさってっ! 目の前にいる機体と交戦してはなりませんの――っ!》
全オープン設定での大絶叫――
敵を守るように立ちはだかる天姫――比叡が目を丸くして機銃を下げる。敵を機雷源へ誘い込む途中だった春奈が顔を覗かせる。慌てて射撃を中止した戦術班らが、動転したように機体を後退。
天姫=敵味方からの砲撃で〈
それでも凛として両者の間に割って入り、あらためて告げる。《彼らは敵ではありませんの。アームスーツへ乗せられているのは……この中にいるのは、連れ去られた難民の方々ですわっ》
「あはははは」「あはははは」「あはははは」「あははははっ」
火に包まれるフロアに悪魔どもの嗤いが木霊する。
首狩り男の振るう機械化義手が、蛇のように首を
首吊り男の放つ液状金属ワイヤーがそこら中に張り巡らされる。
電気刑男の放つ紫電が、予測のつかない軌道で矢のように飛来。
乙――それらの攻撃を前に、防戦一方を強いられる。
四人組の魔物たち――乙はかつてこれとよく似た相手と戦ったことがあった。特甲児童と同じように機械の手足を与えられた異国の兵士たち――その特性と対処のコツは理解している。本来、一対一ならば――一対四だって後れを取らない自信はあった。
だが――今は後ろに負傷した仲間を背負っている。
蛇のように迫る手刀を
そのまま電撃を放つ男に迫撃しようとして――あっけなく退いた敵を追うことが出来ない。バックステップで仲間の傍らへ戻る。
乙の後ろ――壁を背にして不退転の姿勢で銃をめった撃ちするダニエル=倒れた相棒を死守。共に自由に動くことが出来ず――炎で退路を断たれ撤退することも叶わず。この敵はこちらの行動を制限するために、わざと殺さない程度に仲間へ深手を負わせた。
まさに悪魔的な手法――こいつらの真の狙いはこの自分なのだ。
落ち着け。ヘイジョーシンを忘れるな――ゆっくりと息を吐いてカタナを
一定の距離を保って波状攻撃を仕掛けてくる四人組――寄せては返す波のように、攻めれば敵が退く・退けば敵が攻める。
この
舐めるな――青き隻眼を
攻めるか退くか、二つに一つ――刃物に曖昧さは許されない。
「ならば、推して参る!」刃を後ろに下げた
襲い来る蛇腹のギロチンをひょいと左手で掴む――アイキの技で受け流し、首狩り男を宙へぶん投げる。攻防一体の
炎熱に髪と制服を焦がされながら、居合い抜きの姿勢で斬撃を繰り出す――エメラルドの残光=添えた左手の中で鞘走る刃が、本来の長さを取り戻す――妖刀のごとく伸びた白刃が敵の急所=左の手刀を繰り出そうと引かれた義手、その間接の継ぎ目を寸分違わず切断――半ばから真っ二つに切り飛ばされた腕が宙を舞う。こちらが攻めている間は敵も逃げられない。自ら標的になることで後ろにいる仲間を守る――だから迫撃こそ最大の防御となる。
止まらぬ乙の迫撃――
その背後にいた首吊り男へ、カンフー映画張りの飛び蹴りを披露。そのまま蹴りの反動を利用――左手にいた電気刑男へ斬りかかる。
奇襲を受けた相手が右腕を差し出す――迷うことなく一刀両断。
片腕を犠牲にして背後に退く男を追わず――そのまま前後の敵を切り払う
天上に設置されたスプリンクラーの放水――今ごろ火災報知器が作動=降り注ぐシャワーでフロアが水浸しに。
その意味を察した刹那――床を伝う紫電に体を貫かれていた。
「くっ!?」足先から稲妻が走る――とっさに後ろへ飛び退いたが、
「どうだ。血の混ざった水はよく電撃が通るだろ?」床に左手をついた電気刑男――その周りに、天井の
乙=カタナを杖代わりにして、倒れるのを拒否――背後で昏倒する戦術班二人を見る/下卑た嗤いを浮かべる四人組を見る。「……外道どもが。貴様らのような悪党が許されると思うなよ」
「おいおい、分かっちゃいねえな」首狩り男が肩をすくめる。
「お前らもやってることだろうが」電気刑男がまた床へ放電。
「ぐっ……」再度の電撃――転送に支障/四肢に異常/痛覚を
首吊り男が呆れるように、外を指差す――燃える窓の向こう=文化委託された異国の夜景。「この街を見ろよ。国を失った連中から奪い取ったもんで繁栄する街をよう」
火炙り男が残った右の手刀を振るう――試し切りのように近くの柱が切断される。「俺たちはそいつを真似ただけだぜ」
嗤いながらじりじりと間合いを詰める四人組――燃えるような隻眼で毅然と睨み返す。「世迷いごとを吐くな。魔物どもがっ」
「遊びの時間はここまでだ。後はせいぜい、地獄で講釈してな」首狩り男が蛇腹の腕をくねらせる。「グッバイ、サムライレディ。特甲使いの首は貴重だからな。綺麗に斬り落として〈ミステル〉のもとへ届けてやるよ」
四人組の嗤い――蛇腹の腕がギロチンのように跳ね上がる。
窮地において
《――伏せろ、アリスッ!》
室内で竜巻が勃発したかのような弾丸の怒濤が押し寄せた。
砲火の大波が、一瞬でフロアのあらゆるものを吹き飛ばす。
乙=指示に従いお辞儀するように床へ伏せて、砲撃の
窓の外に青いアームスーツ――日向の操る〈ミノタウロス改〉=建物をよじ登り、三階の窓から腕を突き入れ機銃掃射。
なんとも心強い助太刀――障害物をあらかた吹き飛ばした水牛が、外壁を壊しフロアへ足を踏み入れる。天井にぶつからないように腰を屈めた姿勢で、操縦席の装甲を開く。「遅れてすまん。無事か、アリス?」
「私は問題ない」頼れる男の胸に飛び込みたい衝動を堪える――シントーメッキャク=痺れの残る手足を気合で動かし、すっくと立ち上がる。「カスパルが負傷した。油断した私のミスだ」
「例の処刑人どもの仕業か……」日向=乙の後ろに倒れた仲間の姿を認める――まるで仇敵を睨むような鋭さで闇の奥を虎視。
津波が通り過ぎたかのように無残な光景になったオフィス――いずこかへ消え去った四人組の男たち。
乙=悔しげに唇を噛む。「……逃げられたか。魔物どもめ」
機体を降りた日向が、ずぶ濡れの肩へ脱いだ制服をかけてやる。
「あの砲撃を受けて無事だとは思えん。やっかいな敵を撤退させただけで十分だ。……今はこれ以上、問題を抱えてはいられん」
自らの怒りを静めるように、千切れ飛んだ機械化義手のパーツを踏みつける日向――男の姿に安心しきっていたせいで、相手の切羽詰った様子に気づくのが遅れた。「下で何かあったのか?」
「――厄介な状況だ。すでにケーフェルが二台もやられた。今はここの一階を橋頭堡に、態勢を立て直している」
「なんだって?」乙が突入してから、ものの数分でそれだけの被害が出たことに唖然――仮にもこの男の指揮下で、アームスーツと軍用機体五台の戦力がそれだけの痛手を負うとは想像できない。
「……どういうことだ。敵はETの大軍でも連れてきたのか?」
かぶりを振る日向――つねに冷静な黒い瞳が、今は隠しもせぬ怒りに燃える。「出たのはアームスーツが三体だ。要撃小隊の方にも同タイプの機体が現れた。こいつらの中には捕らわれた難民たちが乗せられている。〝人間の盾〟にされた人質だ。このままではこちらは反撃もできず、敵からの一方的な攻撃に晒される」
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