第14話

リイラを連れ戻す決意をしたミカは、数百年振りに、ベッドルームから地下へ通じる階段を降りていた。その眼を見た者がいたのなら恐怖で動けなくなってしまうような、激しい感情が見え隠れしていた。

螺旋状の階段をしばらく降りていった先には重厚で頑丈そうな、しかし錆びている鉄門があった。その扉を触れることなく開ける。

続いて現れた部屋は、石造りで何もない無機質な部屋だった。ともすると牢獄を想像させる。

普段は印を描くことや詠唱をしなくても魔術の発動が出来たが、1度も使用したことのない生物探しの術式だったため、何度か繰り返し修正して行う。何度目かで魔術が発動し、注意深く探す。

すると、リイラの客室のバルコニー部分に結界の乱れを感じた。すぐにそこから、どのような軌跡があったか探る。

リイラがバルコニーから出ていったことが分かった。──そして、リイラがおそらく天上の世界に居るであろうことを把握したのだった。

何かを考える間もなく、ミカは天上の世界へ向かう。途中何重にも結界がはってあったが、ミカにとっては何の意味も持たなかった。リイラの気配から辿り着いた場所には、リイラと大神様であるロイが同じベッドにいた。

その光景を見た瞬間、頭がカッとなり身体中の血が沸騰したかのような衝撃を受けた。


ミカが天上の世界へ来てから3秒以内にリイラはミカに横抱きにされていたし、ロイに激しい損傷を与えて魔界に戻っていた。


ロイが、結界が破られてからの数秒間で出来たことと言えば、殺されない程度の魔術を発動することくらいだった。



魔界に戻ったリイラは、間もなく高熱に襲われた。魔力が高くないのに天上と魔界を行き来しており、通常ならとっくに生きていられないくらいの負荷がかかっていた。

かろうじて生きていたのは、ミカがリイラの負担を軽減させるような魔術をかけていたからだった。

悪夢にうなされる日が続く中で、時々心地好く休める時があった。何か、ひんやりとしたものが額に触れる時だ。

ソレが、今まさに離れようとしていた。その感覚をなくしたくなくて、離れないように掴む。リイラには、ソレが誰かの手であることが分かっていた。

リイラが深い眠りに落ちるまで、その手が離れることはなかった。


リイラが目覚めると、アイリスが看病してくれていた。久しぶりに気分が良かった。


「おはようございます。体調はいかがですか?」

「お陰さまで、なんだかとってもすっきりしてます。ありがとう。」

「いいえ、良かったです。陛下もお喜びになると思います。」

「…陛下?」

「はい、毎晩付き添って下さいましたよ。」

「毎晩…。あ、そういえば、額を冷やしてくれて本当に気持ち良かったです。助かりました。」

「…?私はそうしたことはしておりませんが…。」

「ええっと、じゃあ…」

「きっと陛下ですね。私と陛下以外、リイラ様にお会いしていませんので。」


リイラのミカに対するイメージでは、看病なんてするように思えなかった。だから、まず驚いた。そして、自分を看てくれたことに対しては、純粋にお礼を伝えたいと思った。

それくらい、あの手には癒されていたのだった。

少し話してみたい。

もちろん、恐怖心がなくなった訳ではないが、命を救われたように感じる部分もあり、複雑な心境だった。

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りなりあ 霧乃文 @kirinoaya

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