第11話
魔界のように、天上にも世界があった。
天上はあらゆる神々とその遣い、天使や妖精が暮らす世界で、統治者はやはり神だった。
天上で最も力のある神の名は誰も分からず、大神様と呼ばれていた。
例によって大神様も魔力が高く、美しく、知識もあり、そして暇だった。
大神様は暇潰しで、初めは色んな者を喜ばせるために様々な願いを叶えていた。しかし一度望みを叶えると、もっともっとと満足しない我儘な者ばかりであったので、次第に望みを叶えることをしなくなった。
「醜い」
大神様は見た目だけではなく、魂や心根も美しいものが好きだった。というより、天上の者は美しいものが好きだ。それは、純粋で清らかな感情を向けられることで力を得るからだった。
望みを叶えることを止めた後で、今度は今までとは真反対のこと──色んな者の嫌がることをするようになった。
これが、思いのほか大神様のお気に入りとなった。どんな者でも大抵、瀕死の状態や死んだ方がましだと思う状態になると、心の底から神に許しを乞う。その時ばかりは、神に祈りを捧げるという一点の曇りもない清らかな心になるので、望みを叶えた時よりもキレイに思えて好ましかった。
こんなことができるのは魔力の高い大神様だけで、その他の者は対象を喜ばせ、満足させることに従事していた。
魔王陛下と違って、大神様は暇潰しに積極的だった。決して楽しんでいたという訳ではない。
ただ、何十年何百年とキレイなものだけに囲まれ、周りからは自分の気分を損ねることなく接された。自らなにもしなければ何の刺激もなく、与えられた時間の長さに気が狂いそうだった。それだけだった。
大神様は、魔王陛下が女の子を自分の城へ連れ帰ったと聞いた時、まずはとても驚いた。魔王が何かに興味を持つなんて聞いたこともない。信じられない。そして、一体どんな魔性の女があの魔王を籠絡したのかと、興味深く思った。
「おもしろそうだ」
まずは様子を見に行こう。
そう決めると、行商人として魔王の城へ潜入したのだった。
行商人として女の子──リイラに話し掛けると、何の疑いもなく楽しそうに、いや実際楽しんで会話に応じた。大神様には他者の心の内が手に取るように分かっていた。
また、リイラがとても清らかな心、魂の持ち主であることもすぐに理解した。
それに──、リイラの髪と眼。魔界にあのような薄い色の者は存在しない。かといって天上でも見たことはない。天上では金髪や色味のある淡い色の髪に青や緑の眼が主流だった。
銀髪は、白と黒。紫は、青と赤。つまり、限りなく天上に近い存在と、魔界の者がリイラ両親なのではないか、と考える。
魔王に阻まれ、その日は少ししか話せなかった。それでも、かつてない満足感を感じた。
──あの子がほしい。
けれど、魔王はリイラを閉じ込めてしまったようだった。
大神様からしても、魔王は特別だった。まともに戦って勝てる相手ではない。別に殺されても構わないと思う一方で、死よりもつらい目にあわされる可能性も大いにあり、あまり魔王を刺激したくはなかった。
そこで、魔王が強制的に忙しくなるようにほんの少し仕向けて、リイラが一人になったところでこちらの世界へ誘ってみた。
大神様の狙い通り、誰にも気付かれずに一人でリイラは池まで来た。
そこからはちょっとだけ無理矢理、リイラを天上へ連れてきたのだった。
それは賭けでもあった。何故なら、魔界の者は天上では存在できない。大神様や魔王レベルであっても、他の世界で何日も生活することは難しい。
大神様は、リイラが半分は天上の者であることに賭けてみたのだった。
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